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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
…挙式は滞りなく行われた。
神父の前で、誓いのキスをする為に絢子の純白のベールを上げる。
絢子の可憐な顔は緊張に満ちていたが、幸せに輝いていた。
そっとその愛らしい唇にキスをすると、感激の涙を零した。
…絢子は良い妻になるだろう。
自分はきっと、ゆっくり時間をかけて、彼女を愛してゆくことができるに違いない…。
…これで良かったのだ…。
大紋は絢子と眼を合わせ、優しく笑った。

パイプオルガンの音に合わせ、教会の赤い絨毯の上を、絢子と腕を組み、ゆっくり歩く。
教会の従者が大きな扉を押し開く。
中秋の明るい陽光が眼を打った。

賑やかな声援とともに、友人達が教会の石段を降りてくる大紋と絢子にライスシャワーを浴びせかける。
「おめでとう、お兄様、絢子様」
最前列で笑顔で米を投げるのは雪子だ。
絢子の笑顔が弾ける。
「おめでとう、春馬!こんなに美しい姫君を娶るなんて、けしからんことこの上なしだ。
…おい!今夜は寝かさないからな、覚悟しろ!」
軽口を叩くのは礼也と共に米を投げつける友人達だ。
大紋は苦笑する。

…ふと、ライラックの茂みに眼を遣ったのは偶然だった。
大紋は眼を疑った。
多くの参列者の奥…ライラックの茂みに身を隠すように、一人の青年が静かに佇んでいた。

正装の燕尾服…ホワイトタイ…
古典的な彫像のように美しく儚げな容姿…
…見間違えるはずもない…
大紋が唯一愛した人…

…暁だった。
大紋は瞬きもせずに、暁を見つめた。
暁も大紋を見つめる。
二人の間だけ、時が止まる。

…暁の薄紅色の形の良い唇がそっと開かれる。
暁の唇がゆっくりと動いた。
大紋の貌に驚愕の表情が浮かぶ。

…「愛していました…。誰よりも…」

眼差しは大紋に注がれたままだ。
その言葉を聞き終えた大紋は、思わず叫んだ。
「暁…!」
大紋の声が聞こえたかのように、暁が笑った。
…それは、ちょうど大紋が初めて暁に出会った時の、あの恥ずかしそうな…そしてどこか寂し気な笑みそのものだった。

「春馬様…?どうされたのですか?」
傍らの絢子が心配そうに腕を引く。
…不安気な顔…
まるで、大紋がどこかに行ってしまうのを恐れるような顔…

大紋は絢子を見て、直ぐにまた暁に視線を戻した。

…暁の姿はもうどこにもなかった。
暁がいたその場所には、季節外れのライラックの花が揺れているだけであった。






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