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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
風間の車で、再び縣家に戻る。
百合子と暁はここで、風間と司の到着を待つ。
乳母のミツは百合子の身の回りのものを整え、家の整理をしてから、合流することになった。

車から降りた百合子の目を見つめ、風間は力強い口調で言った。
「…心配しないで、義姉さん。…司は必ず取り返す。
…義姉さんと司は俺が守る。…義姉さんに不幸な結婚なんかさせない」
「…忍さん…。ありがとう…」
百合子は美しい目を潤ませた。

執事の生田が、到着した暁達を出迎えにやってきた。
暁が百合子を紹介する。
「風間先輩のお義姉様だ。…客間にお通ししてくれ。
…それからこのことは他言無用だ。…客間には暫く生田と家政婦の彌生以外は近づかせないようにしてくれ」
酸いも甘いも嚙み分けたベテラン執事の彼は心得たかのように重々しく頷き、百合子を屋敷の中に誘う。
「…奥様、どうぞこちらへ…」

百合子が無事に玄関の中へと入っていったのを確認すると、風間は暁をじっと見つめた。
不器用だが、真摯に口を開く。
「…君には何て言ったらいいのか…」
暁は微笑んだ。
「…何も言わなくていいんです。…僕は最初から分かっていたような気がします。
…忍さんはずっと胸に秘めた辛い恋をされているのではないかと…。…それを分かっていて、忍さんに甘えたのは僕なんです」
「…暁…」
暁の瞳に静かだが強い決心の光が見えた。
「…僕は忍さんに身も心も温めていただきました。
だから今度は、僕が忍さんに恩返しをする番です」
「…暁…」
風間が運転席から身を乗り出し、暁の貌を引き寄せた。
優しい、いたわりと慈愛に満ちたくちづけが交わされる。
「…ありがとう…」
睫毛が触れ合いそうな距離で、風間が囁く。
暁は微笑みながら首を振る。
「…お礼を言うのは僕の方です。…僕は忍さんのおかげで、生きる気力が湧いてきたのです。…もう少しだけ、頑張ってみようかな…て。…ありがとうございます。だから今度は忍さんの番です。…百合子さんと司くんと三人で…きっと幸せになってください」
「…君は本当に良い子だな」
風間は少し潤んだ眼差しで、弟にするように頭をぽんぽんと軽く叩いた。
二人はそっと目を合わせて微笑み合った。




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