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暁の星と月
第3章 暁の天の河
礼也は星南学院の馬場の柵に凭れながら、あちらから喜び勇んで馬に乗って駆けてくる暁を見て思わず笑みを漏らす。
「…可愛いなあ…暁は…。見ろよ、あの黒燕尾の上着。今度の大会の為に新調したんだ。よく似合うだろう?…兄さんのお下がりがいいなんて遠慮するから強引に新調させたんだ」
「暁くんが可愛いのは認めるが…相変わらず兄馬鹿だな…」
大紋は礼也の暁への溺愛ぶりに苦笑しながらも、実際に暁の姿を見ると、頷かずにはいられない。

暁は競技用の黒いシルクハットを被り、黒い燕尾のジャケット、白いシャツに白いタイ、ぴったりした白い乗馬ズボンに黒い長ブーツというさながら外国の貴公子のような姿だ。
ハットの下に輝く白く透き通るような肌、切れ長の黒い瞳、すんなりと整った鼻筋、形の良い唇は淡い桜色だ。

…この三年で暁はすっかり背も伸び手足が長く、まるで西洋人のようなプロポーションである。
暁は二人の前で馬を操り、止まる。
開口一番は…やはり、礼也への言葉であった。
「兄さん!見に来てくれたの?」
美しい瞳をきらきらと輝かせながら嬉しそうに礼也に尋ねる。
「ああ、今週から障害馬術の練習を始めると聞いたからね。…ちょうど大紋と会社で打ち合わせをしていたから一緒に来たよ」
礼也は相変わらず、暁を大切にしている。
時には心配しすぎて、過保護なくらいである。

暁は礼也の傍らの大紋を見てにっこり笑う。
「ありがとうございます。大紋さん」
「正装が板についてきたな。アルフレッドとの相性も良さそうじゃないか」
大紋は明るい光の中、照り映えるような暁の美貌に思わず見惚れながら声をかける。
「ええ。…兄さんの馬は完璧ですから…」
そう言って暁はアルフレッドの首を優しく撫でる。
…暁も相変わらず兄、礼也を一途に慕っている。
今年、礼也の会社は父が社長職を退き会長になり、礼也が社長となった。
仕事は目の回るような忙しさで、国内外を飛び回る毎日である。
一方、暁も高等部に進み勉学、部活、そして休日は社交に忙しい。
なかなか二人でゆっくり語り合う時間も少なくなってきた今、礼也は時間をやりくりして暁の様子を見に来る。
そんな兄が暁は堪らなく大好きなのだ。
礼也を見つめる暁の眼差しの熱さは恋する者のそれである。
大紋はそれを誰よりも知っていた。
…そしてそんな暁を、少し切な気に見守っているのだった。







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