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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
汽車を乗り継ぎ、漸く暁ら縣商会の一行が飯塚の町に入ったのは翌々日のことだった。
篠突く冷たい雨は依然として飯塚の町を一面灰色に覆っていた。

暁は、すぐさま救出された従業員や家族が身を寄せる炭鉱事務所の広間に向った。
着の身着のままで救出された人々が憔悴した様子で、呆然として暁らを見上げる。
縣商会の若者たちは家族を見つけると、駆け寄り無事を喜びあった。

…しかし中には、そこに家族がいない事実を知り、土砂崩れの現場に飛び出す若者もいた。
「行ったらいけん!雨がまだ止まんけん、捜索も危ないんじゃ。お前もミイラ取りがミイラになってしまうわ」
現場監督らしきむくつけき男が、若者を止める。
「…せやかて!母ちゃんと弟がいるったい!」
現場監督は若者の顔をじっと見つめ、苦しげに告げた。
「植田の息子か…。…残念じゃが、さきほど二人のご遺体は現場から発見された…」
暁の身体から血の気が引いた。
植田は常日頃から
「俺は勉強して働いて、母ちゃんと弟を楽にさせてやるったい」
と、志に燃えている好青年だったのだ。

「…そ、そんな馬鹿な!」
若者は信じられないように目を見開く。
現場監督は労わるように植田の肩に手を置く。
「…町はずれの竜安寺さんにご遺体は寝かせられとる。…行ってやり…」
植田は泣き叫びながら広間を飛び出した。
「植田!」
親友の若者が慌てて追いかける。

暁は痛ましげに、彼らが去った方向を見つめ、それから現場監督の方を向き直り、掠れる声で尋ねた。
「…縣商会の縣暁です。…被害の状況を教えて下さい」
現場監督は目の前の驚くほどに美しい青年を見て、一瞬言葉を失くした。
「…あ、ああ…!東京の…社長の弟さんやね!…こげな遠くまで…済まんこってす」
頭を下げる現場監督に首を振る。
「…そんなことはいいのです。…従業員の方々は?…皆さん救出されたのですか?」
無精髭を生やした現場監督は苦し気にため息を吐く。
「…救出はされましたが…怪我を負ったものが多数、亡くなったものも10数名出ました…中には子供もおるとです…。土砂崩れが起こったのが深夜やったけん、逃げられなかったものが多かったとです…」
暁は苦し気に目を閉じた。
…兄さん…!
暁はパリにいる兄に想いを馳せる。








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