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暁の星と月
第10章 聖夜の恋人
礼也は怪訝そうな貌をすることもなく、ふっと笑みを漏らしながら暁の髪を撫で続ける。
「…暁…お前は可愛いな…。
…ずっと私の側にいてくれ…」
まるで寂しがり屋の子どもを甘やかす父親のような口調だ…。

…きっと、僕が兄さんの不在を埋めるように甘えていると思っているのだろう。
暁は兄の誤解に敢えて無邪気に、逞しい身体に抱きつく。
兄のトワレが鼻先を掠め、甘く切ない気持ちになる。
「…うん…ずっと、兄さんの側にいる…」
…何かの代償のように、暁は兄に耽溺する。
このまま、まるで恋人同士のような濃密な兄との関係を壊したくないのに、つい尋ねてしまう。
「…兄さん…パリで何かあったの…?」

兄が暁の髪を撫でる手がふいに止まる。
だが、それは一瞬のことで…
「…何もないよ…何も…ない…」
と静かに答えると、まるで少年の頃の暁にするように髪をくしゃくしゃと撫で回した。

「…そう…」
…暁は兄の嘘を一瞬で見破れる自分を切なく思った。
けれど、あと少し…こうしていたい。
…嵐の前の静けさのようなこの時を、ひたすらに享受していたい。

暁はそっと瞼を閉じて、兄のシャツに貌を埋めた。


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