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暁の星と月
第10章 聖夜の恋人
見事な樅木が玄関ホールに運び込まれ、大階段の傍に設置される。
下僕達が賑やかに言葉を交わしながら、作業をしている様子を、礼也と暁は楽しげに見守った。
メイド達も浮き足立ちながら、その様子をこっそりと覗きに来ている。
これほど巨大なクリスマスツリーを大々的に飾る屋敷は限られているので皆、心待ちにしていたのだ。
暁がメイド達に優しく、近くで見物するように声をかける。
若いメイド達は、美貌の暁に声をかけられたのでやや興奮気味に樅木に近づき歓声を上げ、監視している家政婦の彌生に睨まれる。
明るい笑い声が湧き起こる。

それを見守る暁の楽しげな笑顔を久しぶりに見たような気がして…やはり飾ることにして良かったと礼也はしみじみと思う。

クリスマスリースやオーナメントを箱から取り出し、飾り付けようとしていると、執事の生田が現れた。
「…旦那様、北白川伯爵家の執事、月城氏がお見えになりました」

礼也の表情が変わる。
暁は、その兄の変化を見逃さなかった。
察した生田が、下僕達やメイド達を一旦引き上げさせる。

月城は黒い執事の制服に身を包み、手には見事なクリスマスローズを抱えていた。
きちんと撫でつけられた艶やかな黒髪、西洋人形のように端麗に整った怜悧な美貌、きらりと光る眼鏡の奥の端整な切れ長の瞳が礼也と暁を捉え、恭しく一礼をした。
背が高く、手足が長い彼はまるで西洋人のような見のこなしでしなやかに近づいてくる。
…月城は…本当に綺麗だ…。
暁は改めて見惚れる。

月城は暁を見ると、何かを言いたげな眼差しになったが、暁は思わず伏し目がちになり、礼也の陰にそっと後ずさった。

月城は礼也の前まで来ると、静かに口を開いた。
「…お約束なしにお伺いいたしまして、申し訳ありません。ご無礼をご容赦くださいませ。…実は梨央様よりのクリスマスの贈り物をお持ちいたしました。
…梨央様が自らお育てになりました、クリスマスローズでございます」
月城は腕に抱えた見事なヨーロッパの薫りの漂う薄紅色をした花を差し出した。
礼也はクリスマスローズを受け取りながら、ああ…と表情を和らげる。
「それはわざわざご苦労だったね。…これは見事な花だ。…さすが、梨央さんは緑の指をお持ちだ」

そして、礼也は朗らかに月城を誘う。
「折角来てくれたのだ。お茶でも飲んで行きたまえ。…生田…客間にお茶の用意を頼む」






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