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冷血な獣
第16章 飼い猫
* * *
マンションのゴミ捨て場でゴミを捨て終え、玄関に向かおうとすると急に聞き慣れた声が耳に入った。
「おはよう」
顔を上げて前を向くと、こちらへ歩いてくるりょう君の姿が視界に写る。私服だ。仕事はバーテンダーだったっけ。出勤は夜からだろうか。
「りょう君、おはよう」
笑顔で挨拶を交わすと、りょう君が私の正面で立ち止まった。
「朝からゴミ捨てなんて、彼氏してくれないの?」
「別にこれぐらい自分で出来るし」
「やっぱり妃南は良い子だな……理想の奥さんって感じ……」
一瞬目をトロンとさせてりょう君が呟くと、率直に質問する。
「何言ってるの?」
「いや……何もない。ところで妃南、今日暇?」
「何で?」
「一緒に映画観に行かない?」
「ごめん。彼氏以外の人とは二人で出掛けないようにしてて」
はっきり断ると、りょう君の顔付きに異変が現れる。
「……ふーん。だったら良いや」
明らかに不機嫌になった表情。不満そうに唇は尖って、目は虚ろ。……だった筈だが、すぐにコロッと明るい笑顔が作られた。
「そうだ。だったら俺の猫見に来ない?」