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初恋
第3章 記憶のかけら


彼女は本当に、自分の名前も歳も、家の場所も知らないらしい。


さっき木から落ちたときに頭を打っていたんじゃないかと問い詰めたが、それは否定される。


「あなたを見つける前から帰り道を探してたの。ここに辿り着いたのは、たまたまよ」


たまたま、か。


彼女と目が合ってしまったのは幸か不幸か──いやたぶん不幸だけど、偶然だったってことかよ。


ところで何故木登りをしていたのかを聞いたところ、なんとなく、と返された。


やっぱり変人だこの子。


こうして話している間だって、通りすがりの人が眉を潜めてこっちを見ている。


俺の連れだとわかってるからか、通行人の目が俺にばかり向いてるのが納得できないけど。


そりゃこの寒空に薄手のワンピース一枚って……頭がおかしいとしか思わないよな。


こういう時は自分の上着をかけてやるのが男なんだろうけど、おあいにく様


俺はこの子にそんな義理を感じない。


第一、部屋着にコート羽織っただけの俺だって防寒ばっちりとは言えない服装なんだ。




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