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キスをして
第11章 小塚誠司
窓の外はもうコートを脱いで初々しいスーツ姿の新卒達が和気藹々と歩いている。

「いいなぁ~お昼ご飯食べに行くんだろうなぁ~私も今すぐ外に行ってランチしたい」

……………

「アテレコしないで下さい日下さん」

「りっちゃん冷たいなぁ~そんなに2週間で新人全員逃げたのが悲しいのかな?」

2週間。まだ大した仕事もしていないのに辞めてしまうのは忍耐が足りないのかそれとも日に日にやつれていく私たちのせいなのかは本人でなければ分からない。

「…夢見過ぎなのよ」

年度が変わって少し落ち着きを取り戻した事務所はこれでもマシなのに。

「ああぁ――!!」

「間宮!煩いぞ!」

「すみませーん」

黒沢さんと橘さんまだ会議してたのか。
衝立の奥から黒沢さんに怒鳴られて視線を向けると橘さんが笑いながらデスクに帰ってくる。

「帰りた~い」

「まぁそう言うなよ。今年の社員旅行まで頑張れよ」

「橘さん。私の記憶が正しければ入社してから一度も行けた試しがありませんが?」

「今年の社長は現実を見ている」

「そうだよ!りっちゃん!今年は花見だよ!」

「もう桜散りますよ」

「たんぽぽ…とか?」

「馬鹿ですか?」

毎年海外旅行とか温泉旅行とか計画が立てられるが一度も叶ったことはない。
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