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キスをして
第12章 律香と誠司
「ごめんね仕事中に」

「いえ、皆で出前を頼むとこだったので丁度良かったです」

「律香ちゃんの会社楽しそうね」

「そうですね。あんな会社あんまりないですよね」

いつもと変わらないテンションでわたしに話し掛けてくれるお姉さんは誠司に何か言われて来たんだろうか。

テーブルに並べられる料理を見つめながら必死に言葉を探す。

「───‥あの話って」

「律香ちゃん。ここのパスタすごく美味しいの」

とても優しく声を掛けられて分かった。

「先に食べよっか」

揺らぐ視界を我慢して頷くのが今の私に出来ることだ。

「このあと仕事なかったらお酒も誘ったんだけどなぁ」

「すみません」

「良いのよ。頑張りたいって思える仕事は大事だもの───誠司やっとあなたに話をしたのね」

食べ終わったお皿を下げて温かいコーヒーが置かれる。

「前から分かってたことなんですね」

「そうね。あの子は向こうでとっても気に入られていて店を継いで欲しいってこっちに来る随分前から言われていたみたい。こっちに来たのもね自分の勉強の為なのよ」

「勉強···」

「経験が積みたかったのね。実績は有ったから」

始めから居なくなるつもりだったならなんで···

「別れたいって言われた?」

「そんな事言われてませんっ··結婚して欲しいって」

「!?付いて来てって言われたの?」

お姉さんは何も知らないんだ。

「そうですね」

「返事は?」

「まだ···あの、お姉さんは行った方がいいとか思いますか?」

「律香ちゃん。私ね弟の事は心配だけど律香ちゃんの事も好きよ。いい子だもの。だから身内だからとかそういうの気にしないで」
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