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キスをして
第12章 律香と誠司
「上でコーヒーでも淹れるよ」
「大丈夫。ここで話したい」
小上がりを上がろうとした誠司を引き留めて隅に置かれた椅子に座る。
「もう荷造り終わってるの?」
「必要最低限の物だけ残して後は全て送ったよ」
「そっか。いつ行くの」
「1週間後に発つよ。待つなんて言っといて勝手に決めて悪かったね」
「ううん」
二人して言葉を探しながら切り出しかたを考えている。
足の上で組んだ手が汗ばんでいく。
「私ね今の仕事が好きなの。でもいつかは次のステップに行きたいと思ってる」
「うん」
「でも今じゃない。沢山やりきりたい仕事があるの···今の会社で満足できるところまでいけてないの」
「うん」
「成り行きじゃなくて自分の実力で進みたい」
「うん。俺も仕事をしている律が好きだよ···ありがとう考えてくれて」
ここで泣いたら困らせてしまう。
強く握り締めた手を誠司の長い指が優しくほどこうとする。
「律。大丈夫だから」
立ち上がって顔を上げられない私を抱き締める。
背中を擦りあやすように叩く。
どうしてこんなに優しい人を私は選べないんだろう。
選べる女になれなかったんだろう。
こんなにも温かいと思えるのに、今すぐ背中に腕を回したい。
でも私はそれが出来る立場にない。
ほどかれた手を握り締めて深く息を吸い止めた。
「ありがとう。大丈夫···鍵返さなくちゃだよね」
ポケットに入れていた鍵を渡した。
「大丈夫。ここで話したい」
小上がりを上がろうとした誠司を引き留めて隅に置かれた椅子に座る。
「もう荷造り終わってるの?」
「必要最低限の物だけ残して後は全て送ったよ」
「そっか。いつ行くの」
「1週間後に発つよ。待つなんて言っといて勝手に決めて悪かったね」
「ううん」
二人して言葉を探しながら切り出しかたを考えている。
足の上で組んだ手が汗ばんでいく。
「私ね今の仕事が好きなの。でもいつかは次のステップに行きたいと思ってる」
「うん」
「でも今じゃない。沢山やりきりたい仕事があるの···今の会社で満足できるところまでいけてないの」
「うん」
「成り行きじゃなくて自分の実力で進みたい」
「うん。俺も仕事をしている律が好きだよ···ありがとう考えてくれて」
ここで泣いたら困らせてしまう。
強く握り締めた手を誠司の長い指が優しくほどこうとする。
「律。大丈夫だから」
立ち上がって顔を上げられない私を抱き締める。
背中を擦りあやすように叩く。
どうしてこんなに優しい人を私は選べないんだろう。
選べる女になれなかったんだろう。
こんなにも温かいと思えるのに、今すぐ背中に腕を回したい。
でも私はそれが出来る立場にない。
ほどかれた手を握り締めて深く息を吸い止めた。
「ありがとう。大丈夫···鍵返さなくちゃだよね」
ポケットに入れていた鍵を渡した。