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キスをして
第13章 律香の本懐
週末の夜は相変わらず駅前の繁華街は賑わいでいる。

家まで歩いて15分。
駅から5分程歩くと路地に入る。路地を抜けると小さな商店街がある。そこを抜けた先のロータリーの側に私の部屋がある。

私のアパートの横には空き家の紙が相変わらず貼られたままだ。
自宅に着くと点滅している留守電のメッセージを流す。

何件かのデザイン修正依頼と新規案件が数件。
一年以上続けた営業と事務所時代のコネでそれなりの収入を得られるようになった。

事務所を辞めたのは一年前。
誠司が発ってから一年半が経っていた。

そう。誠司が居なくなってからもう2年半が経つ。
あれから語学の勉強をしてフリーランスに仕事を切り替えて今までとは違う仕事をさせてもらう機会は随分増えた。

『別れる』
とはお互いに口に出すことはなかったが実際離れてもうあれで本当に最後だったんだと実感せざるえなかった。
発つ時間も聞かなかったし、仕事を置いて空港に行って誠司を探すなんてドラマチックな事する様な人間もなれない。

もう涙も随分前に止まってしまった。

───ピンポーン。

「早っ」

玄関に行ってチェーンを外して鍵を開ける。

「来るの分かってんだからチェーン掛けるなよ。切ないわ」

「はははっ気にしすぎでしょ。橘さん呑みますか?」

「呑むよ。あぁそうだコレ依頼書」

「ありがとうございます」

橘さんから受け取った依頼書をリビングに置かれたデスクに置いて冷蔵庫からビールを出す。

「物増えたよな」

「しょっちゅう呑みに来る人がいますからね」

「何?俺のためにこんな良いソファを用意してくれたのか!?」

「わけないでしょ。来客の為ですよ」
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