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シャネルを着た悪魔
第4章 ☆CHANEL NO4☆
映画みたいに抱きしめる事も、肩を抱く事も何もしなかった警備員さん。ただ、黙って──私が泣き終わるのを見つめていた。
最後の、滴が頬の中心を通過した時、彼がやっと口を開いた。
「大変失礼な事をお聞きしますが、通帳にお金は入っていますか?」
「……?はい、勿論。」
「おいくら位でしょうか?」
「貯金は結構してたので、1000万近くは有ると思います」
「それでしたら、今すぐ銀行に行ってください。お金をおろして、家を買いましょう。東京じゃなくても良いじゃないですか」
「実家に帰るのも有りです。田舎で”その力”が働いていない所に映るのも有りです」
「──勝手な意見ですが、きっと不動産会社は代理人の事も教えてくれないと思います。今は『個人情報保護法』もありますし、そんな権力が動いているなら尚更だ」
「それだったら、この家に固執しないで資産も何もかもなくなるけど──新しく人生を始めましょう。きっと田舎の方に行けば家族でしている不動産会社が山ほどありますよ」
「現金で1000万近く出せば、一人暮らしは十分出来るマンションくらいは買えるはずです」
「………。」
「何がどうなってるのか、勿論僕にもわかりません」
「だけど客観的に聞いて──こちらから口頭で、どう足掻いても今の状況に勝てる確率は少ないと思うんです」
「それなら、一生懸命貯めてきた現金を出すしかないでしょう」
顔を上げた。きっとマスカラもアイラインもガタガタになっている。
でもそんな私の顔に、彼が笑うことはなかった。本当に……真剣な顔をしていた。
「なぜ印鑑を持っていたのか、なぜ解約出来たのか、疑問は沢山出ると思います。でも──そんな事が出来る人なら、逆に考えると『解約出来て当たり前』だし『印鑑くらい作れて当たり前』なんですよ」
「柳沢さん、命があるだけマシです。憎まれて命すら奪われる人がたくさん居るこのご時世で──。」