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シャネルを着た悪魔
第1章 ☆CHANEL NO1☆
車を15分程走らせて、着いたのはカンナム地区内にあるお洒落なビル。黒ベースのビルは珍しい。パッと見は高級感もあるし黒いし——で、ヤクザ事務所の様にも見える。
支部長が社員証を見せてから名前を伝えると警備の人がどうぞ、と頭を下げてエントランスの鍵を開けてくれた。
私たちも支部長の背中を追いかける様にして中に入る。
興奮したピョンが韓国語で支部長になにかを伝えていて、彼もまた神妙な面持ちで三度頷いていた。
でも私には訳が分からず、辺りを見回してエレベーターに乗り込むだけ。
支部長が押したのは3という文字。
そして彼が深呼吸をしてから入ったのは多分……このビルの中でも中々良さそうな部屋だった。
ピョンがエレベーターの鏡で必死に髪型を直しているのを見て、私も目脂が付いていないか、口紅がズレテいないか、確認しとけば良かったなぁとか馬鹿なことを思う。
でも私は所詮『本社からの人間』メイクがヨレていても仕事さえこなしていれば、相手の眼中には悪い意味で入る事もないだろう。
どんな場面でもヒョイヒョイとこなす事が出来るのが私の最大の強みだと、自分では思っているので相手が誰であろうが特別緊張はしない。
「失礼しまーす」
英語でそう言ってから室内に足を踏み入れた。
大きな机の前にはわざわざ立って出迎えてくれる五人の若い男性と、真ん中で堂々と座って笑顔を浮かべている紳士なおじさま。
咄嗟にこの真ん中の紳士こそがこの会社のボスであることを悟った。
「いや~わざわざ日本本社からもお越し頂けたんですね」
「あ、はい。はじめまして。柳沢リサです。」
「リサさん。可愛い名前だね。」
負けず劣らず可愛らしい笑顔を浮かべる紳士の英語はイギリス仕込みだ、間違いない。
休みの日は基本的にワイン片手に映画ばかり見ている私。イントネーションだけでどこの英語が分かる様にもなった。
「素敵な英語ですね。イギリス仕込みですか?」
「分かりますか、素晴らしい。なぜ分かったのですか?」
「なぜと言われると難しいですね。——でも、音とか言い回し方がイギリスの映画でよく見るソレですし。」