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あんなこんなエロ短編集
第5章 みそかごと

はあ。はあ。はあ。はー。はー。
依子(よりこ)は夫を眺めている。
呼吸器を被るように装着している夫。
規則正しい呼吸が、耳に届く。
はあ。はあ。はあ。はー、はー。
ぷしゅうううう。
「お母さん?
帰るわよ」
娘の声がして振り返った。
五十に手が届く娘は、大学生の孫を抱えて忙しい。
早くしてよ、私は多忙なんだからね。
そう言われた気がしてバッグを持った。
依子の左手には杖。
ゆっくりと歩く。
「もう、信じらんない。
灯理(あかり)ったら就職しないなんて何を考えてるのかしら?
劇団でお芝居なんて…………」
ーーー病院を出、娘は運転しながら愚痴を吐く。
父親の入院ーー脳梗塞だーーよりも目下の問題は娘・灯理のこと。
死にゆく人間より生きる人間のが大切。
仕方ないか。
夫・安時(やすじ)は父親らしくない父親だった。
毎日酒くさい息を吐き、機嫌が悪いと物に当たる。
ただそれを繰り返して年を取っただけの男だ。
下の娘など見舞いにも来ないのだ。
依子(よりこ)は夫を眺めている。
呼吸器を被るように装着している夫。
規則正しい呼吸が、耳に届く。
はあ。はあ。はあ。はー、はー。
ぷしゅうううう。
「お母さん?
帰るわよ」
娘の声がして振り返った。
五十に手が届く娘は、大学生の孫を抱えて忙しい。
早くしてよ、私は多忙なんだからね。
そう言われた気がしてバッグを持った。
依子の左手には杖。
ゆっくりと歩く。
「もう、信じらんない。
灯理(あかり)ったら就職しないなんて何を考えてるのかしら?
劇団でお芝居なんて…………」
ーーー病院を出、娘は運転しながら愚痴を吐く。
父親の入院ーー脳梗塞だーーよりも目下の問題は娘・灯理のこと。
死にゆく人間より生きる人間のが大切。
仕方ないか。
夫・安時(やすじ)は父親らしくない父親だった。
毎日酒くさい息を吐き、機嫌が悪いと物に当たる。
ただそれを繰り返して年を取っただけの男だ。
下の娘など見舞いにも来ないのだ。

