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愛はいっぱい溢れてる
第1章 夢風鈴
【ガラガラ】
玄関の開く音と共に、「ただいま」の声。
実家の近所に住む、弟の博人(ひろと)だ。
居間に上がり、手に大きなスイカを持って顔を出した。
「お帰り、ヒロ(博人)」
「あっ、姉ちゃん帰ってたんだ。
盆には少し早くないか?
お義兄さんもお久し振りです」
交互に挨拶を交わす。
家族が久し振りに集まった。
「母さんの月命日だから、母さんが呼び寄せたのかもな……」
そう言って、父は笑った。
「良かったな。母さん。
大好きなスイカ、買ってきたからな!」
博人が仏壇にスイカを供えて手を合わせる。
「商店街の八百屋で美味そうに並んでいたから、一番美味いのをってオヤジに言ったら、コレ持っていきな!って渡されたわ」
【ポンポン】とヒロがスイカを叩いた。
「博人も夕食まだなら食べて行きなさい」
父がヒロに声を掛けた。
ヒロは父の隣に座る。
ビールをコップに注がれて、男達は酒を交わした。
美蘭はジュースのコップを手に持ち、乾杯の真似事をする。
「みーちゃん、大きくなったね。
明日はおじちゃん休みだから、プールでも行くか?」
ヒロからデートに誘われた美蘭ははしゃぐ。
「良かったね。美蘭。
パパも海パン買って一緒に泳ごうかな?」
「あっ、お義兄さんも一緒に行きましょうよ!」
「うん。そうしょう。
元水泳部の泳ぎ見せちゃう!」
「ワーイ!ヤッター!!」
嬉しそうな美蘭の声。
…………愛しい。
愛しい我が子の笑顔。
この笑顔を壊してはいけない!
そしてーー優しくて、幸せで、笑顔いっぱいの家族の時間。
『家族のこの笑顔をずっと見ていたい。
生きたい!』
私は強くそう思った。
ふと、仏壇に飾られた母の遺影を見ると、一瞬、母が頷いたように見えた。
【リンリーンリーン………………】
風鈴が綺麗な音を奏でて風に揺れる。
『負けるな!凜子!』
母にそう言われたような気がした。