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お兄ちゃんといっしょ
第30章 巻き戻し1.
 深夜3時。
 とっくに終電を逃した飲み屋街のビルの隙間、ゴミ箱の裏に隠れている自分が少しバカみたいで、かくれんぼの最中私は2回も自分で自分にふきだして笑ってしまった。


 足元をゴキブリが数匹チョロチョロしている。
 そういえばお兄ちゃんはゴキブリを素手で殺せる人だったなぁ…って思い出して、クククッと肩を震わせた。



 深夜の飲み屋街に、パッカー車の音が聴こえてくる。ブィーン…としばらく鳴っては止まって今度はエンジン音がブロロ…と鳴り、また止まってブィーンと鳴る。


 今警察官に出くわしたら次は鑑別所行きかもって覚悟しながら、私は立ち上がってビルの隙間から通りに出た。向こうの方に緑色のパッカー車が見える。
 自治体が契約している業者ではなく、一般企業や飲食店が個別に契約している業者だ。だから夜中に回収業務を行う。


 …なんでこんなことを私が知ってるかって?
 それはね…。


 閉店した飲食店の前に積み上げられたゴミ山の横に立ち、こちらに向かってくるまっ白な眩しいライトを遮るように額に手を当てながら、私は目を細めて運転席を見つめたら案の定お兄ちゃんは一瞬怪訝な顔をして…すぐに呆れた顔になった。



 半年ぶりの再会は、兄妹だからなのか…懐かしくもなければ感動もない、ごく“当たり前のこと”のような流れで執り行われた。



 ゴミ収集はドライバーが一人で行っているらしく、だから、お兄ちゃんと二人きりで再会できたことだけは嬉しかった。
 私が立っているゴミ山の前にパッカー車が止まり、運転席のドアが開く。
 グレーの作業着姿のお兄ちゃんはやっぱり、どこからどう見ても優しそうな穏やかそうな…悪い人には見えない風貌をしていたのが嬉しかった。


「なにしてんの?」


 お兄ちゃんはゴミを両手に持ってうしろに放り投げながら、私に笑顔を向けた。くしゃっとした八重歯の見える笑顔だ。私も自然と笑顔になり…腹の底が満たされていくのを感じた。


「お兄ちゃんが更生して社会復帰してるか見に来たよ」


 私がゴミ袋をひとつ掴んで手渡すと、お兄ちゃんは呆れた顔でそれを黙って受け取り、乱暴にうしろに放り投げた。酷い臭いだ。パッカー車がバリバリ音を立てながらゴミを飲み込んで行く。


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