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囚われの城
第10章 「城へ戻ります」
その男の登場で、一気に教室がざわめく。
日向だ。
「引越しの準備がありますので、ウチの瑠菜は連れて帰ります」
日向は教室に入り、業務的な冷たい笑顔で担任を見据える。
いつもの黒いスーツではなく、ストライプの入った、サラリーマン風の服装。
…日向なりに瑠菜のパパを装っているのだろうか。
しかし話が急すぎる。
今日一日は学校にいられると思っていた瑠菜は、担任がどうにか日向を止めてくれないかと期待した。
担任は日向のオーラに威圧されている。
「そういうことでしたら…」
「ご理解ありがとうございます」
担任は、瑠菜の期待を裏切った。
担任に一礼した日向は瑠菜の目の前に来て、上から見下ろす。
「行こうか、瑠菜」
とても冷たい目。
それなのに、瑠菜の胸がドクッと波打った。
瑠菜は荷物をまとめ、日向と一緒に教室を出る。
こうなったからにはもう後に引けない。
「瑠菜!」
廊下を歩く瑠菜を、ユズが引き止めた。
「行かないでよ!どこに行くの?めいもん中学なんて話、あたしにはしなかったじゃん!嘘なんでしょ?」
「…」
泣きそうな声だ。
ここで取り乱せば、ユズにまで大変な心配をかけてしまう。
「屋敷に戻ります」
瑠菜は無表情にそう言い、屋敷で教わった深いお辞儀をひとつした。
ごめんね、ユズ。
もう二度と会うことはないと思うけど、ユズのことは親友だと思ってる。
瑠菜は再び日向と歩き出し、ポロポロと静かに涙をこぼした。