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囚われの城
第5章 おもてなし
その日は、雷を伴う豪雨だった。
先日黎明から指示された出張の、出発の日。
メイドたちは黒のリクルートスーツに身を包み、髪をピシッとまとめて準備をしていた。
屋敷を出て受け入れ先に着くまでは、仕事のできる女として身だしなみを整えて行くのだ。
受け入れ先でどのようなことをされようが、一般人から見て不信に思われないようにする。
それは桐原財閥の顔に泥を塗らないようにするため。
「みんなだけで移動するの?」
「そんなわけないよ瑠菜!屋敷から逃げたいと思ってる人も少なくない。途中で逃走する可能性もあるでしょ?」
「あ、そっか……」
「ご主人様の信頼する使用人が先導するんだよ」
「ほら、あのグループを先導してる」
ミカンは部屋の窓から下を指差した。
スーツに身を包んだメイドが6人、その先頭にはスーツ姿の男。
18歳に満たない女の子も、スーツを着るとどこか大人びて、新入社員のようだ。
「それに、これもあるし」
「ん?なにそれ」
「このブレスレットはGPSが付いていて、逃げられないの。施錠されてるから外れないし」
ミカンは少し寂しげに、左手に付いた手錠のようなブレスレットを触った。
皆が同じスーツに身を包み、皆が同じ髪型で、皆が同じスーツケースを持つ。
個性のなくなったメイドたちの心は、何を思い、何を考えているのだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね、瑠菜」
「うん。行ってらっしゃい」
「行って、きます」
ミカンはスーツケースを持って玄関ホールに向かう。
5日も経てばまた会える。
そう思って、ミカンや他のメイドたちを見送った。
「ねえ、あなたは行かないの?」
「……っ?!」
「ごめん、脅かしちゃった?あたし、サラ」
突然話しかけられた瑠菜は、びっくりして言葉が出なかった。
キャラメル色の長いストレートの髪を風になびかせ、サラは完璧な笑顔を咲かせる。
きれいな人……。
瑠菜は素直にそう思った。
「あたしも留守番なの。ねえ、あなたの名前は?」
「瑠菜、です」
「そっか!瑠菜ちゃんは知ってる?この屋敷の秘密……」