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囚われの城
第7章 ―――ミカンの見た世界
私が出張することになった時、先輩から聞かされていた話を思い出していた。
その先輩の友達は、出張に行ったきり戻っていないらしい。
どうなったのかさえ、ご主人様や龍さんは教えてくれなかった。
その後からの出張でも、神隠しは何度も起きた。
先輩は言った。
「客の言うことは絶対。何が何でも、逆らわないこと」
私は怖くて、なかなか眠れなかった。
それまでのメイドとしての仕事は、まだ耐えられたの。
瑠菜もいたし、ご主人様や龍さんの言い付けを守れば、ご主人様が守ってくれたから。
それに、メイドとしての仕事も覚えてきて、やりがいさえ抱くようになっていたの。
だから、環境が変わることが怖かった。
出発の朝、瑠菜は笑顔だった。
私も笑顔で出ていきたかったけど、恐怖の方が大きくて、体の震えが止まらなかった。
手首に付けられた手錠は、逃げられないことを意味している。
屋敷を出るのはどれくらいぶりだろう。
手錠を付けられてまで、屋敷の外の世界に出たくはなかったなって、ふと思った。
「電車を使います。急いで」
案内してくれる男の人は、ツカツカと早足で歩く。
道行く人は、珍しいものを見るかのように私たちのことを振り返る。
スーツだから胸は出ていない。
でも私はそっと、胸を隠した。