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霞草
第9章 無知
「ちゃんと帰ってますから。」
と受話器を置いた。
玄関の呼鈴を押すと、母のパタパタと駆け寄る足音がしてドアが開く。
「ただいま、長い間ご心配おかけしました。」
母の泣き顔、父と兄には連絡したが、やはり仕事で遅いようだ。
内心、母だけなのでホッとした。
二人で夕食となる。
僕は霞草の花束を食卓に飾ってもらうように頼んだ。
そして食事しながら、簡単に今までのことを話した。
母は僕が無事ならそれでいいようだった。
食事を終え、部屋で荷物の片付けをしていると、父親が帰ってきたと、母に呼ばれる。
テーブルにつく前に、頭を下げ、
「勝手なことをして申し訳ありませんでした。」
と謝った。
父は、僕がどこで何をしていたのか訊くので、
最寄り駅と、泊まった宿で手伝いながら長居させてもらったことを話した。
父は執拗に、
「相手の連絡先がわからないのか?
僕の方は連絡先など知られてないのか?」
訊いてきた。
僕は、
「大変お世話になり、お礼がしたいのですが、場所はわかっても連絡先がわからないし、僕も宿帳にいい加減な記帳をしてしまったので連絡が来ることもありません。」
と答えた。