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傘の雨
第5章 輪の音
音羽 仁。

私の可愛い弟。

ずっとそうだった。

産まれたばかりの彼はそれは世界一可愛いかった。

泣く声も笑う声も、ずっと見ていられた。

羽を“は”と、仁を“に”と読むことを知った私は、その日からずっとハニと彼を呼んでいた。

「ゆづるー」

ハニは大きくになるにつれて目立つようになっていった。

彼の周りには常に女の子たちがいたし、突然渡される手紙や年々増えるバレンタインチョコレートに埋もれていた。

当の本人は何処吹く風で、どの子にも同じように付かず離れず、平等に扱っていた。


あれはいつだっただろう。

藍と買い物に行く時にハニが着いてきて、暑いからってアイスクリームを食べてた時だった。

「こういうの興味ないですか?」

ハニの前に立つ男の人が1枚の名刺を差し出す。

「またー?」

藍は慣れた様子で覗き込む。

「あれ?モデルとかじゃない感じ?」

「うちはアーティストでして、体つきが良かったので思わず」

「…変態じゃん」

「いや!そういうわけでは!!ダンスに向いてそうという意味で!」

藍はスカウトマンと話し込み、ハニは名刺を見つめていた。

「興味、あるの?」

「早く大人になれそうじゃん」

「早く大人になりたいの?」

ハニは微妙な笑顔を見せた。
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