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銀木犀の香る寝屋であなたと
第7章 別離
 小高い丘の十字架を目指し、珠子は道から外れた茂みを歩き、教会へ近づいた。
ちょうど教会の正面が見えたとき、扉が開き中から人が何人か出てくるのに気づき、茂みに身を隠しながら様子をうかがった。



 葉子と神父がまず見えた。そして――一樹だ。(兄さま!)

 いつから会っていないのだろう。一樹は浅黒く日焼けし、精悍な顔つきで、かっちりとしたスーツに身を包み堂々とした様子だ。真黒な髪と瞳はしっとりとした深い宵闇のようだ。

 懐かしさと愛しさで珠子は胸がいっぱいになる。しかし一樹の陰に隠れていた女の姿が見えたとき、珠子の喜びは瞬く間に消されることとなった。

 長い黒い髪をカチューシャできちんと留め、水色と白のストライプ模様の清楚なワンピースを着た若い女が頬を染め一樹の隣に立っている。
葉子も神父も喜び、祝福を与えているような雰囲気だ。一樹は優しく彼女を見守っている。(兄さま……。結婚なさるのね……)


 若く美しく清潔感のある女はとても一樹に似合っている。薄汚れた自分が一樹の横に並べるとは夢にも思いはしなかったが、流石にこの光景を目の当たりにすると珠子は打ちのめされた。
見ているのが辛くよろめきながら丘を下る。そしてまるで古巣に逃げ帰る様に実家の『沢木屋』の近くに来ていた。



 やはり珠子は距離を取って『沢木屋』の周りをぐるりと回りながら様子を見る。珠子が知る父、浩一の代よりも幾分静かではあるが商売は成り立っているようだ。
ちらっと使用人を見たが見知ったものはいない。珠子だと気づかれても困るので顔を伏せ、裏山のほうへ登っていった。


懐かしい小屋がまだある。なんとか建っているような古ぼけたあばら家だが懐かしさで胸がいっぱいになる。
 珠子は中には入ったことがなかった。ギイギイと音を立てる引き戸を開き、中に入ってみる。粗末な小屋だ。かつてここで浩一と葉子は愛を交わしていた。(なんて、なんて羨ましいのかしら……)

 これから一樹もあの娘と愛し合うのだろうか。涙が自然と零れ落ち珠子は静かに泣いた。

 涙をぬぐっていると、何か光るものが目に入った。
棚に鎌がある。少し錆びてはいるがよく切れそうだ。
 珠子は鎌を手に取り、小屋の外に出た。
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