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銀木犀の香る寝屋であなたと
第8章 再会
五年後、珠子はリヤカーを引っ張り、花や木の苗を売って歩いていた。
畑を半分つぶし、実のなる樹木を育てている。しかし家の周りには銀木犀を植えていた。
あの日、実家の裏山の小屋から、鎌を持って銀木犀の生えている場所へ行き、その枝を何本か切ってきた。それを挿し木にして植えたのだ。
ひざ丈ぐらいだった銀木犀は珠子の背丈ほどに伸び、今年やっと花を咲かせそうな雰囲気だ。
「そろそろ銀木犀の香りを楽しめるかしら?」
茂る葉を優しく撫でながら珠子は香りを想像する。
実際に花が咲かなくとも、目を閉じれば一樹の顔と共に香りを思い出せた。
ないはずの香りを吸い込んで、いつも通り町へ苗を売りに行くことにした。
「キヨさん、精が出るわねえ」
「ええ。そろそろ涼しくなったし出掛けやすいですよ」
キヨと入れ替わったことに、近所の者たちも案外関心がない様で、化粧っ気のない珠子はもう『キヨ』として通っている。
秋風が吹き始めたので、久しぶりに珠子は遠出をしてみることにした。
リヤカーにはミカンとゆずの苗木を乗せ、水を張った桶には挿し木用の銀木犀の枝を何本か入れてある。(これはおまけ)
小さな挿し木を愛しそうに眺めて、珠子はそっとリヤカーを引っ張った。
畑を半分つぶし、実のなる樹木を育てている。しかし家の周りには銀木犀を植えていた。
あの日、実家の裏山の小屋から、鎌を持って銀木犀の生えている場所へ行き、その枝を何本か切ってきた。それを挿し木にして植えたのだ。
ひざ丈ぐらいだった銀木犀は珠子の背丈ほどに伸び、今年やっと花を咲かせそうな雰囲気だ。
「そろそろ銀木犀の香りを楽しめるかしら?」
茂る葉を優しく撫でながら珠子は香りを想像する。
実際に花が咲かなくとも、目を閉じれば一樹の顔と共に香りを思い出せた。
ないはずの香りを吸い込んで、いつも通り町へ苗を売りに行くことにした。
「キヨさん、精が出るわねえ」
「ええ。そろそろ涼しくなったし出掛けやすいですよ」
キヨと入れ替わったことに、近所の者たちも案外関心がない様で、化粧っ気のない珠子はもう『キヨ』として通っている。
秋風が吹き始めたので、久しぶりに珠子は遠出をしてみることにした。
リヤカーにはミカンとゆずの苗木を乗せ、水を張った桶には挿し木用の銀木犀の枝を何本か入れてある。(これはおまけ)
小さな挿し木を愛しそうに眺めて、珠子はそっとリヤカーを引っ張った。