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銀木犀の香る寝屋であなたと
第8章 再会
「お兄さまがそんな活動されているなんて……」
「一樹は一樹なりに社会と戦っているのよ。わたしには祈ることしかできない。傷つけあうことなく平和な世界がくるといいのだけれど」

 葉子は一呼吸おいて続ける。

「一樹は年に一度だけ銀木犀の咲くころに顔を出すわ。あの小屋で少し休んでまた活動に出かけるみたい」
「そう……ですか」

「もうそろそろそんな時期だわ。珠子さん、会いたいのでしょう?」
「ええ。でも、私は……」

 立派に社会に立ち向かう一樹に、目先のことしか考えてこられなかった自分が恥ずかしく
合わせる顔がない。

「会ってやって?一樹はあなたを想って今まで生きてこれたのよ」
「え?」

「あのこは……あなたを愛して……この社会を変えるべく運動に参加したの。愛する人と自由に愛し合える社会を目指して……」
「にいさま……」

 目の前が滲み、珠子は一樹の強い意志を感じさせる眉と澄んだ漆黒の瞳を思い出す。

「ああ、もう行かなくては」

 傾いた西日を見て葉子はつぶやいた。

「そろそろ花が咲くわね……。もし、辛いことがあったらいつでも友の家にくるのよ」
「はい。ありがとうございます。お母さま」

 老いた葉子の後姿を見送り、珠子もリヤカーに残った苗木を乗せ帰路につく。背中を押す西日が温かい。
久しぶりに珠子は考え込み思い悩んだ。小さな住まいが見えてきたころに甘い香りが漂ってくる。(咲いてる……?)

 リヤカーを置き、銀木犀のもとに走ると、小さな白い蕾たちがほころび甘い香りを放っている。

「ああっ」

 やっと開花した銀木犀を眺め、香りに抱きしめられながら珠子は一樹に会いに行く決心をした。
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