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銀木犀の香る寝屋であなたと
第8章 再会
 葉子との再会に感動を覚えながらも、ちらっと見えた若い修道女の顔に見覚えがあり二度見した。(あ、あのかたは……)
彼女は以前、一樹と一緒に教会へ来ていた若い女だ。見間違えはしない。

「どうしていたのです?今まで。あなたは藤井家にいるのではなかったの?」
「おかあさま……」

 手を取り合ったまま、珠子は今までのことを葉子に話す。

「まあっ!なんてお辛い目に……。よく、頑張ったのね……」
「一樹もずっとあなたを想って……」

「あの兄さまはご結婚されなかったのですか?さきほどのシスターと……」
「え?一樹は……ずっと一人ですよ。シスター綾子は一樹と同じ学校の先生よ」

 若い修道女は一之瀬綾子という名で藤井家とは比べ物にならないほどの名門、一之瀬伯爵家の三女である。
 名門が故に海外に留学し、西洋思想や社会主義、共産主義などあらゆる思想に影響を受ける綾子にとって、この大戦で日本が負けることは必至であり、軍事力でトップに立とうとする行為など愚かなことであると小学校で訴え続けた。

 身分の高さにより投獄や逮捕から逃れてはいたが、身分制度の崩壊によって彼女の立場は危ういものとなる。
そこで修道女としてひっそりと活動を続けることにしたのだ。

 それを応援すべく、葉子のいる教会へ案内したのが一樹だ。一樹も戦争には反対で、公安警察から睨まれていた。
今も社会活動を教職に就きながら続けているらしく、どこにいるのか葉子でさえ良く知らないらしい。
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