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銀木犀の香る寝屋であなたと
第1章 月夜の出会い
 次の日から浩一は日に一度は葉子の様子を見に着、たまに一言声を掛けるようになった。そんな日々がしばらく続くと、また周囲の人間が勘ぐり嫌みを言い重労働を押し付ける。

 葉子は浩一にもう来ないでほしいと頼んだ。

「どうして?」
「あの。誤解されるといけませんし……」
「誰かに何か言われたのかい?」
「……」

「少し顔を見たいだけなんだがな。君に迷惑をかけているようだし……」
「迷惑だなんて……」
「休みはあるのか」
「今は土曜に一日あります」

「そうか。じゃ明日の夜に会いに行こう。葉子の家はうちの裏山だったろう」
「えっ?」
「少し顔を見るだけで家に入ったりはしないよ」
「……」

 困惑する葉子に浩一は「八時過ぎに着くようにするから、少しだけ外で話をしてくれないだろうか」と念を押す。
屋敷で顔を合わせているところを見られるよりは随分ましだろうと思い、断れず頷いた。

「でも、うちには時計がありませんので正確な時間はわかりません」
「そうか」

 もぞもぞと浩一は懐から懐中時計を取り出し葉子に渡した。

「これを持っていて」
「あ、え」
「早くしまって」
「はい」
「じゃ、夜に」

 そういって浩一は去った。
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