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銀木犀の香る寝屋であなたと
第2章 家族
 浩一の提案で当時にしては珍しく、キリスト教会で結婚式を挙げることとなった。
参列者は珠子と一樹のみだ。

 親戚と使用人の目を気にし、派手にしたくないという気持ちと、葉子の自分のために贅沢をしてほしくないという希望で、隣町でひっそり行われる。
 衣装も葉子のためによそ行きのワンピースを仕立てた程度で、浩一もスーツを用意した。
一樹は学生服を着、珠子は初めてのワンピースに興奮をしている。

 タクシーを呼び、少し狭い車内でやはり初めて乗る自動車に珠子ははしゃぎ、窓の外の流れる景色を見ていた。

「兄さま、見て。みんなゆっくりねえ」
「車って早いね」

 一樹も興味津々で、運転手の動作を注意深く見ている。

「そろそろ、着くよ」

 浩一が見えてきた金属製の十字架を指さした。


 車を降りて、教会の前に立つ。
小高い丘に建つ細長く白い建物は見慣れない建築で皆、下からすくいあげる様に屋根の上の十字架まで見上げた。
重々しい扉を押し開くと、規則正しく長椅子が並べられ、中央に一人の外国人が立っていた。
長身で細長い手足、髪は薄く、ほぼ白髪の中にキラキラと金色の髪が混じっている。
珠子は薄いブルーの瞳を珍しそうに見ている。

「ヨウコソ」

 初老の宣教師は穏やかな微笑みを浮かべ歓迎する。

「沢木浩一と妻の葉子です」

 浩一は深々と頭を下げた。

「このタビはおめでとうゴザイマス」

 流暢な日本語を話すこの神父は、もう日本で十年生活をしながら布教活動をしているらしい。

「早速ですが、よろしくお願いいたします」
「こどもたちは席についてくだサイ」

 珠子は小さなバッグから、白い折りたたまれた布地を取り出し、一樹に手渡した。

「あの、母さん、これ」
「なあに?」

 葉子はふわっと受け取り広げた。純白のマリアベールだ。

「まあっ!」

 三尺程度の楕円の白いシルク地の周りにレースが縁どられている。少し背が伸びた一樹は、少し腰をかがめた葉子の頭にそっと乗せた。

「ウツクシイですね」

 神父も目を細めて喜んだ。

「布は僕が買って、珠子さんがレースを縫い付けたんです」
「そうか。一樹くん、珠子、ありがとう。とても綺麗な花嫁さんだ」

 葉子の目に光る涙は、真珠のようだった。

「デハ。式を始めまショウ」
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