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銀木犀の香る寝屋であなたと
第4章 少女時代の終焉
キヨが妊娠した。それと同時に藤井男爵の容態が重くなっている。しかし高子はキヨの妊娠に安堵し、文弘も何となく肩の荷が下りているようだ。
丈夫で頑健なキヨの母体は順調そのもので、妊娠初期でも危うさはなかった。それでも大事をとり、なるべく安静にしている。
そして文弘はその間、珠子と寝室を共にすることが増えた。
「なんだか久しぶりだね。寂しかったかい?」
「いえ、あの、少しだけ……」
いきなりの一人寝で寂しいというよりも、虚無感に襲われることが多かった珠子は、この状況をどう感じればよいかわからなかった。
一人でベッドに横たわり婚姻、妻という立場、家庭など自分の在り方を模索する時間を過ごしたが答えは出ていなかった。
「今日はゆっくり愛してあげよう」
(アイスル……?)
言葉の意味を頭ではわかるが、心から理解することはできない。
いつも珠子はうつ伏せに寝そべって文弘はその後ろから挿入する。初夜からずっと変わらない。ほっそりとした背中をなぞり口づけたりさすったりするが、それ以上の愛撫はなくやはり潤滑剤を使う。
もはや痛みも苦しさもなく、滑らかに動く文弘の一物に馴染んできている。また、この行為のさなかに一樹と過ごした日々を思い返すと、珠子の中から甘い快感が沸いてくることを知った。
呻き、甘い声がこぼれてくるとなんだか銀木犀の香りが漂ってくる気がする。(ああ……。一樹兄さま……)
うっとりと恍惚する、この一樹のことを想う時間が珠子の秘かな自由かもしれない。
文弘が達すると営みは終わる。最後まで彼は珠子を優しく扱ってくれている。
前は分からなかったが、初めての夜に言われた『想うのは自由だ』と言う言葉は文弘自身にも当てはまるのだろう。
恐らく彼にも想う人がいるのだ。今では共有する秘密の想いが連帯感を高めていた。
しかしこの均衡はキヨの存在で少し崩れてきている。
(これから先どうなるのだろう……)
何も選択できない珠子にとって不安が募るばかりであった。このところ恋しくなった実家に、少し帰ってもいいか明日文弘に話してみようと、すでに寝息を立てている彼の背中を見た。
丈夫で頑健なキヨの母体は順調そのもので、妊娠初期でも危うさはなかった。それでも大事をとり、なるべく安静にしている。
そして文弘はその間、珠子と寝室を共にすることが増えた。
「なんだか久しぶりだね。寂しかったかい?」
「いえ、あの、少しだけ……」
いきなりの一人寝で寂しいというよりも、虚無感に襲われることが多かった珠子は、この状況をどう感じればよいかわからなかった。
一人でベッドに横たわり婚姻、妻という立場、家庭など自分の在り方を模索する時間を過ごしたが答えは出ていなかった。
「今日はゆっくり愛してあげよう」
(アイスル……?)
言葉の意味を頭ではわかるが、心から理解することはできない。
いつも珠子はうつ伏せに寝そべって文弘はその後ろから挿入する。初夜からずっと変わらない。ほっそりとした背中をなぞり口づけたりさすったりするが、それ以上の愛撫はなくやはり潤滑剤を使う。
もはや痛みも苦しさもなく、滑らかに動く文弘の一物に馴染んできている。また、この行為のさなかに一樹と過ごした日々を思い返すと、珠子の中から甘い快感が沸いてくることを知った。
呻き、甘い声がこぼれてくるとなんだか銀木犀の香りが漂ってくる気がする。(ああ……。一樹兄さま……)
うっとりと恍惚する、この一樹のことを想う時間が珠子の秘かな自由かもしれない。
文弘が達すると営みは終わる。最後まで彼は珠子を優しく扱ってくれている。
前は分からなかったが、初めての夜に言われた『想うのは自由だ』と言う言葉は文弘自身にも当てはまるのだろう。
恐らく彼にも想う人がいるのだ。今では共有する秘密の想いが連帯感を高めていた。
しかしこの均衡はキヨの存在で少し崩れてきている。
(これから先どうなるのだろう……)
何も選択できない珠子にとって不安が募るばかりであった。このところ恋しくなった実家に、少し帰ってもいいか明日文弘に話してみようと、すでに寝息を立てている彼の背中を見た。