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銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
藤井家に男の子が生まれた。元気の良い丸々とした赤ん坊で吉弘と名付けられた。
キヨは安産で産後の肥立ちもよく、乳もなかなか出るようで吉弘はすくすくと大きくなり、高子も文弘も可愛がっている。
珠子も赤ん坊を抱いたりあやしたりしたかったが、キヨへの遠慮と部外者感がそれをさせなかった。高子はキヨが子供を手放さなくなることを恐れて、産まれたらすぐに乳の出る乳母を探し、吉弘にあてがう予定だった。しかしキヨのほとばしる様に出る乳にかなうものはなく、しばらくこのままということになっている。
吉弘の首が座り始めると、高子は自ら抱いて庭を散歩し、珠子にも抱かせた。
「ほら、珠子さん。吉弘さんですよ。抱いてやりなさい」
「は、はい」
腰かけたまま膝の上にそっと、吉弘は柔らかい布地にくるまれたまま置かれる。壊れやすい卵をいだくように珠子はそうっと包み込むように抱えた。(柔らかい)
布地の上からでも赤ん坊は柔らかく温かい。
吉弘は機嫌がいいらしく、「ふあっ、あふっ」と音を出しながら丸いこげ茶色の瞳で珠子の目を見つめる。
キヨは安産で産後の肥立ちもよく、乳もなかなか出るようで吉弘はすくすくと大きくなり、高子も文弘も可愛がっている。
珠子も赤ん坊を抱いたりあやしたりしたかったが、キヨへの遠慮と部外者感がそれをさせなかった。高子はキヨが子供を手放さなくなることを恐れて、産まれたらすぐに乳の出る乳母を探し、吉弘にあてがう予定だった。しかしキヨのほとばしる様に出る乳にかなうものはなく、しばらくこのままということになっている。
吉弘の首が座り始めると、高子は自ら抱いて庭を散歩し、珠子にも抱かせた。
「ほら、珠子さん。吉弘さんですよ。抱いてやりなさい」
「は、はい」
腰かけたまま膝の上にそっと、吉弘は柔らかい布地にくるまれたまま置かれる。壊れやすい卵をいだくように珠子はそうっと包み込むように抱えた。(柔らかい)
布地の上からでも赤ん坊は柔らかく温かい。
吉弘は機嫌がいいらしく、「ふあっ、あふっ」と音を出しながら丸いこげ茶色の瞳で珠子の目を見つめる。