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銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
「可愛いですね、赤ちゃんって」
「ほんとに……」
いつも厳しい表情の高子の頬が緩んでいる。
「母になると女性は何か変わるのでしょうか」
「どうかしらね……」
珠子の素朴な疑問に高子は曖昧な返答をする。それがなんとなく珠子には不思議に感じた。
そのうち吉弘がぐずり始めたので慌てて珠子は「おーよしよし」と優しく揺さぶった。
「おしめが濡れてるのかもしれないわね。かえてくるわ」
高子は珠子から吉弘を抱き上げ、キヨのいる離れへと向かった。珠子は後姿を見送りながら手の中に残る赤ん坊の温もりを思い返す。
自分の子ではないのに無垢な赤ん坊を抱いていると愛しさが募る。そしてキヨが羨ましいと思った。
庭でぼんやりしているとひそひそと後ろで、年配のメイドたちが話しているのが聞こえた。
「また外腹ね」
「前はすんなりいったけど、今度はどうかしらねぇ」
「キヨさんはえらく長くいるわねえ」
珠子に気づいていないのだろう。少し噂話をしてメイドたちはまた持ち場に戻った。(外腹……?)
誰のことを言っているのだろうか。気にはなるが追及することはできないだろう。
珠子は改めて藤井家の事を何も知らないのだと実感した。高子も嫁に来たときは同じだったのだろうか。
いつまでも客人の様な自分の居場所が不安定な感じがする。それでもここに居るしかないのだと自分に言い聞かせた。
「ほんとに……」
いつも厳しい表情の高子の頬が緩んでいる。
「母になると女性は何か変わるのでしょうか」
「どうかしらね……」
珠子の素朴な疑問に高子は曖昧な返答をする。それがなんとなく珠子には不思議に感じた。
そのうち吉弘がぐずり始めたので慌てて珠子は「おーよしよし」と優しく揺さぶった。
「おしめが濡れてるのかもしれないわね。かえてくるわ」
高子は珠子から吉弘を抱き上げ、キヨのいる離れへと向かった。珠子は後姿を見送りながら手の中に残る赤ん坊の温もりを思い返す。
自分の子ではないのに無垢な赤ん坊を抱いていると愛しさが募る。そしてキヨが羨ましいと思った。
庭でぼんやりしているとひそひそと後ろで、年配のメイドたちが話しているのが聞こえた。
「また外腹ね」
「前はすんなりいったけど、今度はどうかしらねぇ」
「キヨさんはえらく長くいるわねえ」
珠子に気づいていないのだろう。少し噂話をしてメイドたちはまた持ち場に戻った。(外腹……?)
誰のことを言っているのだろうか。気にはなるが追及することはできないだろう。
珠子は改めて藤井家の事を何も知らないのだと実感した。高子も嫁に来たときは同じだったのだろうか。
いつまでも客人の様な自分の居場所が不安定な感じがする。それでもここに居るしかないのだと自分に言い聞かせた。