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銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
 藤井正弘の容態が急変し、逝去した。藤井邸はざわめいたがもう何年も前から予想されていたことなので慌てふためくことなく、葬儀から文弘への襲爵まで滞りなく済まされた。

 家族を含め、正弘の死を悼む者は少ない。高子とは二十以上離れた夫婦でそれほど睦まじい様子もなく、形式的な婚姻だったのだろう。なんら死に対する感情が見えてこない。合理的にてきぱきと物事を進めていく。

 文弘は多少不安げな表情を見せたが、悲しんだ様子はなさそうだ。高子と文弘の親子関係は睦まじく妻の珠子ですら近寄りがたい雰囲気だが、正弘との関係は形だけなのだろう。
 ひと月も経つと、何事もなかったような日常が始まる。



 沢木家にも世代交代が行われた。珠子の父、浩一が亡くなったのだ。
『沢木屋』は浩一の甥であり、養子縁組を結んでおいた沢木正夫が息子として継ぐことになった。
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