この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
珠子は藤井家に戻ると、再び鉛の様な色彩のない毎日を送った。
慣らすためか一日一度は高子が吉弘を連れてき、珠子に抱かせる。その時間だけが珠子にとって生きてる実感のわく時間であった。
もう吉弘が産まれて一年近くになる。キヨは相変わらず妾宅に住んでいて育児に精を出している。珠子とキヨが顔を合わせることはないが、お互いに意識しあっているのは薄々感じる。
「珠子さん。申し訳ないわね。もう少しだけキヨさんに居てもらうけど、いずれきちんと吉弘さんは珠子さんのお子としますから」
高子にしては気まずそうな物言いをする。
「あの、お義母さま。私はキヨさんがいらしても……構わないと思っています」
ふぅーっとため息をつきながら、高子が眉間にしわを寄せる。
「珠子さんのお気遣いはうれしいのだけれど」
身分の高い家には色々事情があるのだろうか。珠子にはそれを探る術も知りたい好奇心もなかった。
ただ高子と正弘の夫婦関係と、葉子と浩一の夫婦関係の終焉を見たときに自分自身は高子のような立場であり、葉子の様な思いをすることはないのだと思うと、キヨや文弘が少しでもシアワセでいてほしいと願うのだった。
慣らすためか一日一度は高子が吉弘を連れてき、珠子に抱かせる。その時間だけが珠子にとって生きてる実感のわく時間であった。
もう吉弘が産まれて一年近くになる。キヨは相変わらず妾宅に住んでいて育児に精を出している。珠子とキヨが顔を合わせることはないが、お互いに意識しあっているのは薄々感じる。
「珠子さん。申し訳ないわね。もう少しだけキヨさんに居てもらうけど、いずれきちんと吉弘さんは珠子さんのお子としますから」
高子にしては気まずそうな物言いをする。
「あの、お義母さま。私はキヨさんがいらしても……構わないと思っています」
ふぅーっとため息をつきながら、高子が眉間にしわを寄せる。
「珠子さんのお気遣いはうれしいのだけれど」
身分の高い家には色々事情があるのだろうか。珠子にはそれを探る術も知りたい好奇心もなかった。
ただ高子と正弘の夫婦関係と、葉子と浩一の夫婦関係の終焉を見たときに自分自身は高子のような立場であり、葉子の様な思いをすることはないのだと思うと、キヨや文弘が少しでもシアワセでいてほしいと願うのだった。