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銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
「火事だ!」
使用人の怒声が響き渡った。珠子ががばっと起き出すと、隣で静かに寝ていた文弘も「なんだ!?」と身体を起こした。
「あなた!火事ですって!」
「火事だと?どこだ!出所は!」
ベッドから起き出して文弘ガウンを羽織った。
扉を開けると若いメイドが息を切らしながら駆けて来、「だんな様、大奥様のお部屋の隣から出火ですっ!」と叫ぶように言う。
「なんだと!お母さまっ!」
あっと言う間に文弘は駆けだして行ってしまった。珠子を素早くガウンを羽織りメイドに「消火は誰がしているの?規模は?」と質問攻めにしたが慌てふためいているメイドは目を白黒させ動揺している。
「とにかく外に避難しましょう!」
「は、はいっ」
知らせることで精一杯だったメイドの手を引き珠子を連れて外に出た。火の手が思ったより大きく上がっている。
「こっ、こんなっ。消防には電話したのっ?」
「は、はい。もう、ポンプ車が来ると思います」
使用人たちはほぼ全員庭に出ているようだが、肝心の文弘と高子、そしてキヨの姿が見えない。
「文弘さんとお義母さまとキヨさんは!?」
「だんな様は大奥様のところへ、キ、キヨさんは、まだ出てきてません!」
おろおろとするメイドの話しを最後まで聞かずに、珠子は急いで妾宅へ駆けた。
庭を囲むようにコの字で建てられた洋館の隣にキヨの住まう妾宅があり、方角は同じだ。
火の手の勢いはそちらから上がっている。
木材商の娘である珠子は、火の元には幼いころから厳しくしつけられていたこともあり、普段はおっとりしているが火災への反応は敏捷であった。
幸い沢木屋から火災を出したことはないが、それに対する対応は心得がある。
熱気を感じる前に、庭の噴水にザブリと身を浸し濡れた身体で妾宅へ向かった。
使用人の怒声が響き渡った。珠子ががばっと起き出すと、隣で静かに寝ていた文弘も「なんだ!?」と身体を起こした。
「あなた!火事ですって!」
「火事だと?どこだ!出所は!」
ベッドから起き出して文弘ガウンを羽織った。
扉を開けると若いメイドが息を切らしながら駆けて来、「だんな様、大奥様のお部屋の隣から出火ですっ!」と叫ぶように言う。
「なんだと!お母さまっ!」
あっと言う間に文弘は駆けだして行ってしまった。珠子を素早くガウンを羽織りメイドに「消火は誰がしているの?規模は?」と質問攻めにしたが慌てふためいているメイドは目を白黒させ動揺している。
「とにかく外に避難しましょう!」
「は、はいっ」
知らせることで精一杯だったメイドの手を引き珠子を連れて外に出た。火の手が思ったより大きく上がっている。
「こっ、こんなっ。消防には電話したのっ?」
「は、はい。もう、ポンプ車が来ると思います」
使用人たちはほぼ全員庭に出ているようだが、肝心の文弘と高子、そしてキヨの姿が見えない。
「文弘さんとお義母さまとキヨさんは!?」
「だんな様は大奥様のところへ、キ、キヨさんは、まだ出てきてません!」
おろおろとするメイドの話しを最後まで聞かずに、珠子は急いで妾宅へ駆けた。
庭を囲むようにコの字で建てられた洋館の隣にキヨの住まう妾宅があり、方角は同じだ。
火の手の勢いはそちらから上がっている。
木材商の娘である珠子は、火の元には幼いころから厳しくしつけられていたこともあり、普段はおっとりしているが火災への反応は敏捷であった。
幸い沢木屋から火災を出したことはないが、それに対する対応は心得がある。
熱気を感じる前に、庭の噴水にザブリと身を浸し濡れた身体で妾宅へ向かった。