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銀木犀の香る寝屋であなたと
第5章 没落
「ああっ!!」
焼け落ちる平屋の妾宅から、キヨが髪を炎で燃やしながら吉弘を抱いて、這う這うの体で出てきた。
珠子は濡れているガウンをキヨの頭からかぶせ鎮火を試みる。じゅわっと蒸発音がし、水蒸気が立ち込める。
「あぁ……珠子、お、くさま、吉弘を……」
髪が焼け縮れ、顔の半分を赤黒くしたキヨが、真綿の着物に包まれた吉弘を差し出す。その腕は着物と肉の焼け焦げた匂いを発する。
「キヨさん、大丈夫よ。よく眠っているだけよ」
「よかった……」
はあっーっと大きな息を吐き出してキヨは気を失った。
「キヨさんっ、しっかりして!」
車の音が聞こえ、消火作業がやっと始まった。妾宅は全焼、藤井邸は一部屋、高子の部屋が焼け落ちている。
珠子はすやすやと何事もないように眠る吉弘を抱いて、ぼんやりと火の消えた焼け跡を眺めた。
消防に当たった警防団員が大きな声で珠子を呼んだ。
「奥様!こちらへ!」
珠子はハッとして団員の男のもとへ駆け寄った。白い煙がくすぶっている中、高子の部屋へ向かう。
「吉弘さんをお願い」
「は、はい」
メイドに眠ったままの吉弘を抱かせ、珠子は革靴の裏に熱気を感じながら煙を手ではらい、しゃがんだ男の後ろに立った。
「ご主人様かと……」
「はあぁっ!」
文弘と高子だ。もうすでに息絶えている。
二人は炎ではなく煙にやられたのであろう。衣服も毛髪も焼け焦げたところはほとんど見当たらず眠っているように見える。
珠子はがくがくと膝を震わせ、近づいて二人を見た。高子の上に文弘が覆いかぶさっている。
恐らく彼が母親を守ろうと身を挺したのであろう。
「あっ」
小さくあげた珠子の声に男が「どうなさいましたか?」と尋ねた。
「い、いえ。なんでも……。夫と義母です」
気を失いそうになる珠子の目に、文弘と高子の手が絡み合うように繋がれていて、口元に微笑みが浮かんでいるのが見えた。
焼け落ちる平屋の妾宅から、キヨが髪を炎で燃やしながら吉弘を抱いて、這う這うの体で出てきた。
珠子は濡れているガウンをキヨの頭からかぶせ鎮火を試みる。じゅわっと蒸発音がし、水蒸気が立ち込める。
「あぁ……珠子、お、くさま、吉弘を……」
髪が焼け縮れ、顔の半分を赤黒くしたキヨが、真綿の着物に包まれた吉弘を差し出す。その腕は着物と肉の焼け焦げた匂いを発する。
「キヨさん、大丈夫よ。よく眠っているだけよ」
「よかった……」
はあっーっと大きな息を吐き出してキヨは気を失った。
「キヨさんっ、しっかりして!」
車の音が聞こえ、消火作業がやっと始まった。妾宅は全焼、藤井邸は一部屋、高子の部屋が焼け落ちている。
珠子はすやすやと何事もないように眠る吉弘を抱いて、ぼんやりと火の消えた焼け跡を眺めた。
消防に当たった警防団員が大きな声で珠子を呼んだ。
「奥様!こちらへ!」
珠子はハッとして団員の男のもとへ駆け寄った。白い煙がくすぶっている中、高子の部屋へ向かう。
「吉弘さんをお願い」
「は、はい」
メイドに眠ったままの吉弘を抱かせ、珠子は革靴の裏に熱気を感じながら煙を手ではらい、しゃがんだ男の後ろに立った。
「ご主人様かと……」
「はあぁっ!」
文弘と高子だ。もうすでに息絶えている。
二人は炎ではなく煙にやられたのであろう。衣服も毛髪も焼け焦げたところはほとんど見当たらず眠っているように見える。
珠子はがくがくと膝を震わせ、近づいて二人を見た。高子の上に文弘が覆いかぶさっている。
恐らく彼が母親を守ろうと身を挺したのであろう。
「あっ」
小さくあげた珠子の声に男が「どうなさいましたか?」と尋ねた。
「い、いえ。なんでも……。夫と義母です」
気を失いそうになる珠子の目に、文弘と高子の手が絡み合うように繋がれていて、口元に微笑みが浮かんでいるのが見えた。