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色絵
第9章 猫
アトリエで待つように言われ、腰掛けて待つ。
絵だけが慌てたように片付けられていた。

珈琲の香りと共に先生が入ってきた。
ワタシはその香りを胸いっぱい吸い自分を落ち着かせようとした。

「どうぞ。」

ワタシの前に差し出されたカップに口をつける。苦い味は、今のワタシの心境と同じだった。

「猫など飼っていません。先ほど、失礼なことをしたのは、僕の娘です。」

想像もしない先生の言葉に、ワタシは思わず顔を上げ先生を見つめた。

確か、結婚したことがないとおっしゃっていたはず。先生への信頼がガラガラと崩れていく音がする。

「少し長い話になりますが…」

そう言って、やはり苦い表情で先生が口を開いた。

「僕には同い年の許嫁がいたんです。
幼なじみでもありました。

何も知らず僕達は育ち、互いに恋に落ちました。

僕達は必然、運命と感じていたものが、仕組まれたものだと気付いたのは、
僕が美大に進むと親に話した時でした。」

ワタシは息が止まりそうだった。もしかしたら、先生に本気で愛されたのはワタシだけではないかと、有頂天になっていたから…

そして何も言えないので、視線を先生に向けたまま珈琲を啜る。
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