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色絵
第9章 猫

何も言えなくなってしまったワタシの手をとり、先生は玄関まで見送ってくださった。

「失礼します。」

ありきたりの挨拶をしてワタシは屋敷を後にした。




家に着くと主人から留守電が入っていた。
今日も遅くなる。
ワタシは簡単に食事を済ませ、風呂も済ませた。

今までの絵や先生からいただいた絵を並べる。

沙織さん、沙絵さん、先生のことを考えた。


先生は沙織さんをもう愛することが出来ないとおっしゃったけど、忘れることもないだろう。

そして、沙絵さんがどこまで母親のことを知っているのかわからないけど、

先生と自分の生活を脅かす存在として、ワタシを覗きに来たのだ。
10歳の娘が父親と知らない女の情事を見てしまったこと、どんなにショックだったろうか。

次々に思い悩むが、ワタシはどうしたらよいのか、正解を求めて迷っていた。

理性で考えれば、もう先生に会わないほうがよい。

その答えしかないのに、もっとよい方法がないかと考えている。

知らなければ良かった。
気づかなければ良かった。
先生が誤魔化したように、猫だと思っていれば良かった。

どうしようもないことを考えている。


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