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色絵
第3章 デッサン
インターホンを押す。
「どうぞ、いらっしゃい。」
ワタシは屋敷まで急ぐ。
庭木より、先生に早く会いたい。
素直な気持ちだった。
カラン、カラン…
「おはようございます。
昨日のように着替えたら来てもらえますか?
ちょっと手が離せなくて…」
アトリエから先生の声だけが聞こえる。
「おはようございます。では、失礼します。」
衣装部屋に着物が用意されていた。
着物に着替える。それは、日常から離れ、このお屋敷の人間になる儀式のようでもあった。
専業主婦でも妻でもないワタシ、今までの平凡なだけのワタシでもない。
真っ白なワタシに戻る。
気が引き締まっていく…
進む足取りも足袋だと違う。
「失礼します。おはようございます。」
「ああ、帯が締められないんだったね。この蕾が描けたら完成だから…」
ワタシは先生の絵を覗きこむ。
先端に伸びる一番硬い蕾にとりかかっていた。
「もう完成しちゃうんですね。」
「花が開いてしまうからね。」
もう少しで完成する。
紙から花が浮き出る瞬間…
ワタシは息を止めて見届ける。