この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
縣男爵の憂鬱 〜 暁の星と月 番外編〜
第1章 縣男爵の憂鬱
…暁が一人暮らしを始めて3カ月が経った。
正直なところ、礼也は寂しくて寂しくて仕方がなかった。
暁が屋敷の中にいないことが…だ。
今までは、朝食室で、居間で、ダイニングルームで、図書室で、温室で、1日に何度も暁の貌を見ることが出来た。
暁は礼也の貌を見ると、いつも恥ずかしそうな…嬉しそうな貌をして微笑うのだ。
その瞬間、夜に咲く白い花のようなやや寂しげな美貌がぱっと輝くように華やぐのだ。
そして
「…兄さん!おはようございます」だの
「…兄さん!お帰りなさい」だの
「…兄さん!もうお休みですか?」だの
可愛いことを言いながら抱きついてくれるのだ。
それは暁がこの屋敷に引き取られてからの習慣であった。
礼也は、華奢な身体でぎゅっと抱きついてくる暁を抱きしめ
「おはよう、暁。昨夜はよく眠れたかい?」とか
「ただいま、暁。今日はどうだった?嫌なことはなかったかい?」とか
「おやすみ、暁。良い夢を…」
と言ったり、清らかな額にキスをするのが楽しみだった。
暁のどこか異国に咲く花めいた薫りを嗅ぎながら、暁の美しい貌を見つめるとうっとりとして、日頃の疲れも吹き飛んだものだった。
…それが…
暁が一人暮らしを始めてから、そんなこともできなくなった。
暁は最近、開店したばかりのビストロに詰めることが多く、会社で貌を見ることも稀であった。
週に一度は必ず屋敷に顔を出すようにと申し渡しているのだが多忙のため、それもなかなか難しかった。
また、暁が来る日は礼也が出張だったりとゆっくり話すこともできないのだ。
礼也は溜息を吐く。
そして最近の口癖を呟く。
「…暁に会いたい…どうしているかな…」
今日も、暁がいると思って縣商会に貌を出したのに
大番頭の玉木が開口一番
「ああ、社長!暁坊ちゃんは上野のビストロに行かれてますよ。今日、新しいメニューを始めるそうで、その感触を知りたいからと言っておられました」
と言ったのだ。
「…そうか…」
礼也は落胆の溜息を吐く。
そして…
「…暁に会いたい…。どうしているかな…」
と、針が飛んだレコードのように繰り返すのだ。
玉木は同情したように言う。
「…社長…。まるで暁坊ちゃんを嫁に出されたような感じたいねえ…。一人暮らしをさせるちゅうこつはそげん寂しかですかねえ?」
「…嫁…」
礼也の眉がピクリと動いた。
正直なところ、礼也は寂しくて寂しくて仕方がなかった。
暁が屋敷の中にいないことが…だ。
今までは、朝食室で、居間で、ダイニングルームで、図書室で、温室で、1日に何度も暁の貌を見ることが出来た。
暁は礼也の貌を見ると、いつも恥ずかしそうな…嬉しそうな貌をして微笑うのだ。
その瞬間、夜に咲く白い花のようなやや寂しげな美貌がぱっと輝くように華やぐのだ。
そして
「…兄さん!おはようございます」だの
「…兄さん!お帰りなさい」だの
「…兄さん!もうお休みですか?」だの
可愛いことを言いながら抱きついてくれるのだ。
それは暁がこの屋敷に引き取られてからの習慣であった。
礼也は、華奢な身体でぎゅっと抱きついてくる暁を抱きしめ
「おはよう、暁。昨夜はよく眠れたかい?」とか
「ただいま、暁。今日はどうだった?嫌なことはなかったかい?」とか
「おやすみ、暁。良い夢を…」
と言ったり、清らかな額にキスをするのが楽しみだった。
暁のどこか異国に咲く花めいた薫りを嗅ぎながら、暁の美しい貌を見つめるとうっとりとして、日頃の疲れも吹き飛んだものだった。
…それが…
暁が一人暮らしを始めてから、そんなこともできなくなった。
暁は最近、開店したばかりのビストロに詰めることが多く、会社で貌を見ることも稀であった。
週に一度は必ず屋敷に顔を出すようにと申し渡しているのだが多忙のため、それもなかなか難しかった。
また、暁が来る日は礼也が出張だったりとゆっくり話すこともできないのだ。
礼也は溜息を吐く。
そして最近の口癖を呟く。
「…暁に会いたい…どうしているかな…」
今日も、暁がいると思って縣商会に貌を出したのに
大番頭の玉木が開口一番
「ああ、社長!暁坊ちゃんは上野のビストロに行かれてますよ。今日、新しいメニューを始めるそうで、その感触を知りたいからと言っておられました」
と言ったのだ。
「…そうか…」
礼也は落胆の溜息を吐く。
そして…
「…暁に会いたい…。どうしているかな…」
と、針が飛んだレコードのように繰り返すのだ。
玉木は同情したように言う。
「…社長…。まるで暁坊ちゃんを嫁に出されたような感じたいねえ…。一人暮らしをさせるちゅうこつはそげん寂しかですかねえ?」
「…嫁…」
礼也の眉がピクリと動いた。