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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
「…月城…」
暁の声に、大紋がはっと背後を振り返る。
月城の表情はいつもと同じだ。
人形のように整ったそのひんやりとした美貌には喜怒哀楽の色は見て取れない。
「…暁様、私は馬場でお待ちしています」
普段より幾分低い声が聞こえた。
ジークフリートの手綱を握ったまま踵を返そうとする月城に、大紋が声を掛ける。
「いや、それには及ばない。…僕はもう行くよ。…邪魔をしてすまなかったね」
紳士らしい穏やかな品格に満ちた声だ。
暁の横を通り過ぎようとして、ふと振り返る。
しみじみとした…少し寂しげな声が届く。
「…彼と上手く行っているんだね」
暁は一瞬の間も置かずに、大紋を見上げ頷いた。
「はい。…幸せです」
大紋の眼が切なげに細められ、しかしすぐに優しい眼差しに取って代わる。
「良かった…。…君が幸せかどうかが、気掛かりだった」
…じゃ…と、大きな温かな手が暁の肩に触れ、そのまま大紋は馬房を出ていった。
月城はすれ違う大紋に美しく礼儀に適ったお辞儀をした。
大紋は帽子の縁に少し触れ、お辞儀を返す。
背筋の凛と伸びた美しい後ろ姿を見せながら、大紋は馬場を去っていった。
暫く暁は大紋の後ろ姿を見送っていたが、やがて月城に視線を移した。
月城の眼鏡の奥の切れ長の瞳には何の感情も映していない。
だが、いつもの温かさはない。
暁はやや気まずい思いをしながら、月城に声をかけた。
「…行こう、月城…」
「…はい」
月城は暁の目を見ず、そのまま手綱を引き、馬場へと脚を踏み出した。
暁の声に、大紋がはっと背後を振り返る。
月城の表情はいつもと同じだ。
人形のように整ったそのひんやりとした美貌には喜怒哀楽の色は見て取れない。
「…暁様、私は馬場でお待ちしています」
普段より幾分低い声が聞こえた。
ジークフリートの手綱を握ったまま踵を返そうとする月城に、大紋が声を掛ける。
「いや、それには及ばない。…僕はもう行くよ。…邪魔をしてすまなかったね」
紳士らしい穏やかな品格に満ちた声だ。
暁の横を通り過ぎようとして、ふと振り返る。
しみじみとした…少し寂しげな声が届く。
「…彼と上手く行っているんだね」
暁は一瞬の間も置かずに、大紋を見上げ頷いた。
「はい。…幸せです」
大紋の眼が切なげに細められ、しかしすぐに優しい眼差しに取って代わる。
「良かった…。…君が幸せかどうかが、気掛かりだった」
…じゃ…と、大きな温かな手が暁の肩に触れ、そのまま大紋は馬房を出ていった。
月城はすれ違う大紋に美しく礼儀に適ったお辞儀をした。
大紋は帽子の縁に少し触れ、お辞儀を返す。
背筋の凛と伸びた美しい後ろ姿を見せながら、大紋は馬場を去っていった。
暫く暁は大紋の後ろ姿を見送っていたが、やがて月城に視線を移した。
月城の眼鏡の奥の切れ長の瞳には何の感情も映していない。
だが、いつもの温かさはない。
暁はやや気まずい思いをしながら、月城に声をかけた。
「…行こう、月城…」
「…はい」
月城は暁の目を見ず、そのまま手綱を引き、馬場へと脚を踏み出した。