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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
暁が男の胸の中から貌を見上げる。
「…ねえ、月城は?やっぱり雪国育ちだから雪は見飽きた?」
月城は優しい眼差しを注ぎながら苦笑する。
「そうですね。…私の育った村はうんざりするくらい雪深くて…。雪かきを毎日しなくては屋根が押し潰されそうでした。小さくて粗末な家でしたからね。
…それに、冬は海が時化て…。小さな烏賊釣り舟は転覆しそうになるのが日常茶飯事でした」
冬の日本海の荒波は悪魔が牙を剥いたかのような凄まじい勢いと恐怖に満ちていた。
一度、時化に巻き込まれた漁船が転覆しかけて、月城は荒れ狂う海の波間に放り出されたことがあった。
氷より冷たい海に錐揉みのように急激に沈んでゆきながら月城は自分はもう死ぬのだと、どこか冷静に諦観したほどだった。

海に落ちた月城に気づいた船員が浮輪を投げてくれなかったら間違いなく死んでいただろう。
「…怖かったよね。…月城が死ななくて良かった…本当に良かった…」
まるで自分が遭難したかのように怯える暁が愛おしくてならない。
しがみついてくる暁の背中を優しくさする。
「…私はあの時に生かされたのは、貴方と巡り会う為だったのだと思っています。

「…月城…」
「貴方に出逢う為に神様が私を生かしてくれたのです。そう信じています」
暁は自分から月城の頬に手を当て、そっとくちづけた。
「…神様に、僕からもお礼を言わなくちゃ…。
月城を生かしてくれてありがとうございます…て。
君がいない世界を想像すると、僕は気が狂いそうになる…」
「…暁様…」
月城から慈しみ深いくちづけが与えられる。
…そっと唇を離すと、月城は暁の手を改めて両手で握りしめた。

「…暁様。お願いがあります」
改まってこんな風に切り出されるのは初めてで、暁は少し緊張しながらも頷いた。
「何でも言って…月城」
暁の手が今一度強く握りしめられる。
月城の眼鏡の奥の黒い瞳が暁を捉えて離さない。
「…私と一緒に、故郷の村に帰郷していただけませんか…?」
「…え…?」
その言葉は余りに唐突で、暁は月城の貌を見つめ返すことしかできなかった。
「…貴方を、私の母と妹に紹介したいのです」
…そして、揺るぎない愛と信念の微笑みを浮かべて告げたのだった。
「…貴方を私の生涯の伴侶だと、紹介したいのです」

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