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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
「…しみ抜きに出しますよ…腕の良い職人を知っています」
暁は貌を朱に染めながら首を振る。
「…やだ…!そんなの…見られるの…恥ずかし…い…」
大量の精に塗れた着物と長襦袢を他人に見られるなんて、この上ない羞恥だ。
「大丈夫です。おまかせください。…それにしても…」
難なく暁を己れの膝の上に向かい合うように抱き上げながら、眼鏡の奥の怜悧な瞳を淫蕩に細める。
「…着物姿で果てられる貴方は、例えようもなくお美しかったですよ」
…貴方にお見せしたかった…と、薄い耳朶を噛みながら囁かれ、暁は思わず甘い吐息を漏らす。
「…もう…月城は愛し合うと性格が変わるな…。…すごく意地悪だ…」
「嫌いになられますか?」
少しもそんなことを危惧していない人形のように端正な男の貌を憎らしく見上げる。
「…嫌いになるわけない…。月城がなにをしても…僕は君を赦すだろう…君を愛しすぎていて…嫌いなるという選択が僕にはないんだ…」
健気な告白に胸を打たれながらも、月城はつい底意地の悪い質問を繰り出す。
「…私が浮気をしても…?」
細い寝間着の肩がびくりと震える。
暁の白い貌が辛そうに背けられる。
「…すごく嫌だけど…仕方ない…君に捨てられさえしなければ…それでい…」
「馬鹿なことを…!」
月城が珍しく腹立たしげに端正な眉を寄せ、荒々しく暁を掻き抱く。
「…私が浮気するなどと本気でお思いですか?こんなに…貴方に夢中なのに」
こんなに愛している想いがきちんと伝わっているのかと焦れるような感情に駆られる。
暁は自分の愛を月城に差し出すだけ差し出して満足し、後のことは目を閉じ、耳を塞いでいるのではないか。
「…思いたくないけれど…月城はもてるし…それに…僕より若くて綺麗なひとはたくさんいるから…」
困ったように苦笑し、膝の上の暁を甘やかすように髪を撫でる。
「貴方よりお若い方はたくさんおられますが、貴方より綺麗な方は一人もおられません。私が心惹かれる方も貴方お一人です…これからも…未来永劫です」
寂しげな暁の美貌に温かな血の気が差す。
「…本当に…?」
「本当に…」
唇を求めて来た月城にうっとりと身を委ねようとして、じろりと睨む。
「…もう一つは否定しなかったな」
「何がですか?」
「…君がもてることだ」
否定も肯定せずに、ひんやりとした綺麗な貌に暁にしか見せない柔らかな笑みを浮かべ、再び唇を寄せた。

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