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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…その夜、暁はまんじりともしないで月城の帰りを月城の家で待っていた。
暁の自宅でも良かったのだが気持ちが不安定な今、月城の面影や薫りが漂う彼の家で待っていたかったのだ。

…夜も更けた頃、月城の寝室に入る。
元々和室だった部屋を暁が隣の家に住み始めたのを機に洋間に改築し、寝台を入れたのだ。

…「貴方の家でも、私の家でも、いつでも貴方と愛し合えるようにしましたよ…」
艶めいた笑みを漏らしながら、暁の唇を求めた月城の抱擁の強さは…今でも覚えているのに…。

…あれから15年も経ったのか…。
月城の寝室を見渡しながら、独白る。
…僕たちの愛は深まって…絆も強くなったと思っていたけれど…こんなことだけで不安になったり、彼を疑ったりするなんて…。
自分はどうして月城のことになると脆弱になってしまうのだろうか…。
小さく溜息を吐く。
…もっと強くならなくちゃ…。
月城を信じて…。

…梨央さん、大丈夫かな…。
暁は、月城の腕の中でぐったりと瞼を閉じていた梨央を思い出す。
…触れたら壊れてしまいそうな、硝子細工のような美しいひと…。

…あんなにも美しいひとの側に始終いて…月城は…なんとも思わないのだろうか…。
かつては恋をし、ずっと慕っていたひとだ…。
今日のように…口づけして…なんとも思わないのだろうか…。

再び仄暗い負の感情が暁を支配し始める。
暁は慌てて頭を振りながら、部屋を歩き回る。

…ふと、寝室の片隅にある月城の桐の箪笥に目が行った。
前執事の橘から譲られた古い箪笥だ。
…一番上の引き出しが僅かに開いていた…。

…几帳面な月城には珍しいことだ…。
暁はゆっくりと歩み寄り、その引き出しを仕舞い直そうとして、ふと手が止まった。

引き出しの奥に、何枚かの写真が見えたのだ。
…見てはならない…。
月城の私物なのだ。
…見てはならない…。

目を閉じて引き出しを仕舞おうとする手が、止まる。
…震える手が引き出しをそっと開く。

目に飛び込んできたのは…
…幼い頃の梨央と…まだ若い月城の写真であった…。

暁の震える白い指がその写真を取り出す。
…白いドレスを着たまだ六、七歳位の梨央と…彼女を抱き上げる月城は…恐らくは執事見習いの頃…まだ二十歳前の青年だ。

…月城は幼い梨央抱きながら、眩しそうな困ったような…暁が見たことがないような表情を浮かべていた。







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