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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
晩餐が終わると、子どもたちはナニーに連れられ子ども部屋に入り、司は気を利かせ早々に部屋に戻った。
泉が司の入浴の支度を手伝う為に、後を追う。

礼也は二階の夫婦の居間に暁を招いた。
「…何があったのだ。暁…」
暁が目の前の飴色の革張りのソファ座るなり、礼也は穏やかに尋ねた。
「…何も…ないです。…兄さん達の貌を見たくなっただけです…」
「それなら嬉しいが…お前が急にこの家に帰る時は大抵、情緒が不安定な時だ。そしてその原因は…月城だ。
何があった?月城がお前を傷つけるようなことをしたのか?」
「違います。月城は関係ありません。月城は…とても良い伴侶です。僕が…我儘だから…僕が…弱いから…少しの月城の不在が堪えるだけなのです。
彼のせいではありません」
暁は敢えて微笑みを浮かべて答える。
…梨央とのことを疑い、嫉妬しているとは言えない。
礼也はかつて梨央の婚約者だったのだ。

礼也は暁の華奢な白い手を握りしめる。
そして噛んで含めるように暁に言い聞かせる。
「お前が我儘を言うはずはない。お前はとても繊細な性格だ。そして幼少期にとても寂しく辛い思いをして育った。だから人より脆いところがあるのは仕方のないことだ。
…月城を責めるつもりはないが…彼は少し暁に対して配慮が足りないのではないか?」
光がすかさず釘を刺す。
「礼也さん。お言葉が過ぎるわ。月城さんははたからみてもとても暁さんを大切にしていらっしゃるし、愛していらっしゃるわ。配慮がないなんてこと…」
礼也は珍しく愛妻に、やや硬い声で答える。
「梨央さんは数日前にはもう退院しておられるのだろう?…ではなぜ暁に連絡を寄越さない?」
暁はその言葉にはっと貌を強張らせた。
…梨央さんはもう退院していらしたのか…。
病院に詰めているから連絡が出来ないとばかりに思っていた暁は、不意をつかれたように黙り込む。

光はそんな暁を思い遣るように明るく答える。
「きっと屋敷を離れられない事情があるのよ。月城さんは忠誠心の強い執事だから仕事をおざなりにしたりできないのだわ」
「だが彼は暁にも心を配るべきだ。暁を見ていると常に月城に気を遣い我慢しているような気がしてならないのだよ」
礼也はこれまでの溜まった気掛かりを吐露するように、畳み掛けた。
礼也にとって暁はいつまでも心配でならない…美しく可憐な愛おしい唯一無二の弟なのだった。
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