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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…とにかく、暫くはここにいて気持ちを休めなさい」
話の最後に礼也はいつものように鷹揚に笑って暁を抱きしめた。
「週末は久しぶりに二人で遠乗りに行こう。
…葉山の別荘に皆で行くのもいいな。舟遊びも楽しめる頃だ。箱根まで足を伸ばして湯治をするのもいい。
…お前が行きたいところに行こう…」
礼也はいつもそうだ。
暁の元気が出るもの、好きなものを思いつくまま並べてくれる。
有り余るほどの愛と優しさを与えてくれ、甘やかしてくれる。
…愛と安堵に飢えていた子どもの暁には、それらは地上の楽園の信じられないほどに甘い果実だった。
兄さんのそばにいれば、何も怖くはない…。
兄さんのそばにいれば、全てが満たされる…。
…それは今も変わらない。
…兄さんの胸の中は相変わらず良い薫りがして、天国のように心地良い…。
「…おやすみ、可愛い暁…。良い夢を…」
昔と変わらない就寝の儀式のキスを礼也は暁の清らかな額に与える。
「…おやすみなさい。兄さん…」
暁は静かに微笑んで、夫婦の居間を出る。
…けれど…
兄だけではもはや満たされない空洞があるのを、暁は悟っていた。
兄さんの胸は逞しく温かいけれど、それだけでは駄目なのだ…。
…自分は月城によって変えられてしまったのだ。
あの狂おしいほどに愛おしい男でないと、この胸の空洞は埋められないことを、暁は今更ながらに思い知らされたのだった。
話の最後に礼也はいつものように鷹揚に笑って暁を抱きしめた。
「週末は久しぶりに二人で遠乗りに行こう。
…葉山の別荘に皆で行くのもいいな。舟遊びも楽しめる頃だ。箱根まで足を伸ばして湯治をするのもいい。
…お前が行きたいところに行こう…」
礼也はいつもそうだ。
暁の元気が出るもの、好きなものを思いつくまま並べてくれる。
有り余るほどの愛と優しさを与えてくれ、甘やかしてくれる。
…愛と安堵に飢えていた子どもの暁には、それらは地上の楽園の信じられないほどに甘い果実だった。
兄さんのそばにいれば、何も怖くはない…。
兄さんのそばにいれば、全てが満たされる…。
…それは今も変わらない。
…兄さんの胸の中は相変わらず良い薫りがして、天国のように心地良い…。
「…おやすみ、可愛い暁…。良い夢を…」
昔と変わらない就寝の儀式のキスを礼也は暁の清らかな額に与える。
「…おやすみなさい。兄さん…」
暁は静かに微笑んで、夫婦の居間を出る。
…けれど…
兄だけではもはや満たされない空洞があるのを、暁は悟っていた。
兄さんの胸は逞しく温かいけれど、それだけでは駄目なのだ…。
…自分は月城によって変えられてしまったのだ。
あの狂おしいほどに愛おしい男でないと、この胸の空洞は埋められないことを、暁は今更ながらに思い知らされたのだった。