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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
礼也と光の華麗なワルツを眺めていると、ワイングラスが差し出された。
「飲みなさい。気持ちが落ち着く」
ふり仰ぐ先には大紋の優しい笑みがあった。
笑みの陰には真摯に心配する眼差しがある。
「…春馬さん…」
「何があった?あの憲兵隊の将校は何の為に暁に会いに来たのだ?」
素直にグラスを受け取りながら、言葉を詰まらせる。
…本当は胸が引き絞られるほどに不安が押し寄せていた。
今、春馬さんに心の内を打ち明けられたらどんなに楽だろうか…。
…けれど…。
暁はワインを一口飲むと、婉然と微笑んだ。
「ご心配には及びません。人違いでした」
大紋が眉を顰める。
「暁…」

…これは、僕と月城の問題なのだ。
そして、僕は月城を信じると決めたのだ。
暁は感謝を込めて、大紋を見つめる。
「春馬さん、ありがとうございます。でも、大丈夫です」

広間の入り口から可愛らしい声が響いた。
「たいへんたいへん!ワルツ!ワルツが始まってるわ!」
菫達が絢子に連れられて、広間に戻ってきたのだ。
菫はぴょんぴょん跳ねながら、暁を探す。
ぱたぱたと足音を響かせながら、菫は暁に駆け寄った。
「暁おじちゃま!菫と踊って!おやくそく、したわよね?」
おしゃまな様子で、ベビーピンクのシフォンのドレスを摘みながらお辞儀をする。
その様子に周りから好意的な笑みが漏れる。

暁は大紋にグラスを手渡すと、恭しく胸に手を当て優しく微笑んでお辞儀をした。
「…喜んで、お姫様」
菫の小さな手を取り、ゆっくりとステップを踏む。
菫は小さな身体一杯に喜びを弾ませながら、真剣にワルツを踊る。
愛らしいその姿に招待客から拍手が湧き上がる。

「おじちゃま、菫、ワルツ上手になったでしょ?」
得意げに見上げるその子どもながらに美しい貌は光にそっくりだ。
「…とても上手だよ、菫は世界一すてきなお姫様だ」
菫の白い頬が薔薇色に輝く。
「菫、暁おじちゃまのお嫁ちゃまになれる?」
おしゃまな少女はもうずっと暁に恋をしているのだ。
暁は優しく諭すように答える。
「君が大好きだよ、菫。でも、僕にはもう運命の人がいるんだ。ごめんね」
…でも…と、菫を愛おしげに抱き寄せる。
「…君にもいつか美しい運命の人が現れる。そして菫は必ず幸せになるよ」
菫は一瞬考え込んだが、やがてにっこり笑った。
「それならいいわ!」
お伽話のようなワルツはいつまでも続いた。

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