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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
「…青山って…あいつだよな?」
…以前、司が泉と諍いをし、高輪の風間家に帰ってしまったことがある。
泉は司を連れ帰るべく、執事に追い払われてもめげずに屋敷の外梯子をよじ登り、司の部屋に忍び込んだのだ。
…その時に司に馴れ馴れしく触れていたのが青山なる人物であった。
…確か美術商をしていた奴だ。なぜそいつの名前が出て来るのだ?
「おい、司。青山とまだ会っているのか?いつだ?いつ会った⁈」
詰問責めにする泉に司は薄く笑う。
「今夜、うちのパーティで会ったよ」
…今夜は高輪の風間家で懇意の友人や得意客を集めてのクリスマスパーティが開かれていた。
司は風間の祖父母に頼み込まれ、そちらのパーティに出席して、縣家のクリスマスパーティには参加できなかったのだ。
「あいつ、まだお前の周りをうろちょろしているのか⁈」
…俺をロミオ呼ばりしたいけ好かないオヤジだった…。しかし、やたら洗練されていて大人の色気と余裕を醸し出している…実に嫌なタイプのオヤジだったのだ。
「だって、うちのホテルのお得意様だし…青山さんの画廊から絵を買っているから、そりゃパーティだなんだで会うよ」

泉は苛々としながら司に詰め寄る。
「…で⁈あいつと何かあったのか⁈」
司は美しい琥珀色の瞳でじろりと泉を睨みつけた。
「…もしあったとしても、泉は僕を責めたりできないよね。僕とは寝ない!て勝手に決めつけて、一年もほったらかしにしたんだからさ」
「お、おい!」
慌てふためく泉を尻目に司はややうっとりとした眼差しで空を見つめた。
「…今夜の青山さんは素敵だったな…。フランス製の黒い燕尾服にホワイトタイ…。お洒落で話が面白くて…僕にクリスマスプレゼントだってパテックフィリップの時計をくださったんだ」
「え⁈なんだって⁈」
パテックフィリップと言えば超高級時計だ。
もちろん泉の給料で買えるような代物ではない。
第一、この戦時下で舶来の贅沢品など一般人には手に入る術もないのだ。

…やはり司には青山のような富も名声も家柄も全て揃っているような紳士が似合うのではないだろうか…。
弱気になった心に常に頭にあった不安が再び渦巻き始める。

「…やっぱり…お前にはそういう超一流の紳士が似合うのかな…」
…俺じゃあ、司に何の贅沢もさせてやれない…。
司は美しいものや高級品を身につけると、より一層きらきらと輝くひとなのに…。





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