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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
暁がフロレアン達のテーブルに着き、料理の説明をすると、フロレアンが暁に女性を紹介してくれた。
「…アキラ、こちらは今、僕の絵のモデルをしてくれているマダム・アルトワ…。
ヴァレリー・ド・アルトワ子爵夫人だ。
ヴァレリー、こちらは僕の…」
言いかけると、その言葉を引き取り暁に手を差し伸べ笑いかけた。
「貴方のヒカルの義弟ね。初めまして。
…とても美しい方だわ。…ジャポンの方は皆、ヒカルみたいに美しいのかしら?」
暁は一瞬答えに窮した。
フロレアンを見ると、苦笑いをしながら肩を竦めて見せた。
「…彼女は全てご存知さ」
暁はミルクのように真っ白な美しい手を取り、軽くその甲にくちづける。
「ようこそいらっしゃいました。…マダム・アルトワ」
「ヴァレリーとお呼びになって。アキラ…」
…そして暁の貌をじっと見つめ、しみじみとした口調で呟くように言った。
「…美しい黒髪に黒い瞳…。…ジャポネーゼは本当に美しいわね。…ねえ、アキラ。フロレアンは本当は私が黒髪で黒い瞳なら良かったのに…と思っているのよ。
貴方のお義姉様のヒカルのように…。
私はヒカルに似ているでしょう?
私の絵を描きながら、心の中ではヒカルを想っているの。
…ロマンチックだけれど、失礼なお話しよね…」
淡々と話すヴァレリーの手をフロレアンは柔らかく握りしめる。
「そんなことはないさ。君はとても美しく魅力的だ。
今や君は僕のミューズだ。君がいないと創作意欲が湧かないほどさ」
ヴァレリーはその美しい翠の瞳にふっと切ない色を一瞬滲ませた。
「…ほらね。こんな言葉で私を縛ってしまうの。…身も心も…酷いひとよね…」
しかしヴァレリーのその作り物のように美しい手は愛おしげにフロレアンの整った貌の輪郭をなぞるのだ。
…二人の間に流れる空気は紛れもなく愛なのに、それは決して相交わらない。
微かに胸が痛むのをやり過ごし、静かな笑みを浮かべた。
「…どうぞごゆっくりお過ごし下さい…」
一礼して席を離れる。
カウンターに戻り、月城にそっと声をかける。
「…何だか複雑みたい。…人妻だし…。フロレアンは…どう思っているのかな…」
月城はテーブル席を見遣り、口を開く。
「…愛には…色々な形があるのですよ…きっと…」
月城の言葉を受け、フロレアンを振り返る。
…フロレアンは、やはり愛にしか見えない眼差しでヴァレリーを見つめていた。
「…アキラ、こちらは今、僕の絵のモデルをしてくれているマダム・アルトワ…。
ヴァレリー・ド・アルトワ子爵夫人だ。
ヴァレリー、こちらは僕の…」
言いかけると、その言葉を引き取り暁に手を差し伸べ笑いかけた。
「貴方のヒカルの義弟ね。初めまして。
…とても美しい方だわ。…ジャポンの方は皆、ヒカルみたいに美しいのかしら?」
暁は一瞬答えに窮した。
フロレアンを見ると、苦笑いをしながら肩を竦めて見せた。
「…彼女は全てご存知さ」
暁はミルクのように真っ白な美しい手を取り、軽くその甲にくちづける。
「ようこそいらっしゃいました。…マダム・アルトワ」
「ヴァレリーとお呼びになって。アキラ…」
…そして暁の貌をじっと見つめ、しみじみとした口調で呟くように言った。
「…美しい黒髪に黒い瞳…。…ジャポネーゼは本当に美しいわね。…ねえ、アキラ。フロレアンは本当は私が黒髪で黒い瞳なら良かったのに…と思っているのよ。
貴方のお義姉様のヒカルのように…。
私はヒカルに似ているでしょう?
私の絵を描きながら、心の中ではヒカルを想っているの。
…ロマンチックだけれど、失礼なお話しよね…」
淡々と話すヴァレリーの手をフロレアンは柔らかく握りしめる。
「そんなことはないさ。君はとても美しく魅力的だ。
今や君は僕のミューズだ。君がいないと創作意欲が湧かないほどさ」
ヴァレリーはその美しい翠の瞳にふっと切ない色を一瞬滲ませた。
「…ほらね。こんな言葉で私を縛ってしまうの。…身も心も…酷いひとよね…」
しかしヴァレリーのその作り物のように美しい手は愛おしげにフロレアンの整った貌の輪郭をなぞるのだ。
…二人の間に流れる空気は紛れもなく愛なのに、それは決して相交わらない。
微かに胸が痛むのをやり過ごし、静かな笑みを浮かべた。
「…どうぞごゆっくりお過ごし下さい…」
一礼して席を離れる。
カウンターに戻り、月城にそっと声をかける。
「…何だか複雑みたい。…人妻だし…。フロレアンは…どう思っているのかな…」
月城はテーブル席を見遣り、口を開く。
「…愛には…色々な形があるのですよ…きっと…」
月城の言葉を受け、フロレアンを振り返る。
…フロレアンは、やはり愛にしか見えない眼差しでヴァレリーを見つめていた。