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隠密の華
第2章 一

……しまった。話に夢中になっていて、逃げるのを忘れていた。

そのまま恐る恐る入口へ視線を向けると、顔を黒い布で覆ったさっきの男が立っており。鋭い目付きで桐と呼ばれた男を睨み付けながら、私達の方へ近付いてきた。

「もう手を出したのか?」

「ヤってねーよ!」

「分かってるな?こいつは駄目だ」

「はいはい。大事な売り物だからだろ?頭(カシラ)」

……やはりこの男が山賊の頭……。読み通り、山賊を統一する男。

興味深げに桐と話す男をじっと見ていると、その内すぐに視線が合う。

「おい、娘。ついてこい」

「えっ……どうして?」

「明日、お前を買いたいと言っていた男が此処へ着く」

「そんな……」

冷血に睨み付けられ、それだけで鼓動が速まっていたが。平然と続けられた言葉に、私は呆然とするしかなかった。

「明日の為に風呂へ入って体を洗え。お前は俺達の大事な売り物なんだからな――」

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