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隠密の華
第11章 十
「……本当に、感謝している。国の為に体を張り、気苦労耐えない事だろう。旅に出ているという父親は見つかったか?」
「いえ……私が結婚していることも知りません。白夜達には、両親共に旅に出て帰らないと言ってあります……」
「そうか……火凰国にいる胡蝶の両親も見つからない。三人がお前に気付いたら、さぞ驚くだろう」
「そうですね……その時は上手く誤魔化さないと」
真剣な顔で設樂様が話すと、私も深刻な顔になる。しかし――
「本当は……お前を白夜に渡したくはなかった」
続けられた言葉を聞くと、一瞬呆然とした。
「えっ?」
「胡蝶としてではない。都として、俺はお前を愛していた」
「設樂様……何を……?」
「こんなことを告げても、もう遅いがな」
困惑する私を、まっすぐな瞳が捕らえて離さない。……何故、こんなことを。設樂様がこんな冗談を言うとも思えない。
「国の為にお前を手離したが、この一年忘れることが出来なかった」
「本当に、どういうことなのでしょうか……」
「お前に会いたくて堪らなかったということだ」
頭が混乱する私へ、唐突に設樂様は微笑みながら右手を伸ばす。そして――そのまま優しく私の頭を撫でた。